第3話 不審者ですか?エスケープ

 スキルを使って無事に華麗に逃げ出し、そして、今はまた、近所の森の奥に居る。帰ってきて絶望してたあの森の。ちなみに家から徒歩10分くらいの近場。


 って思ってたよりも逃げられてない!

 速度上昇の効果短すぎだろぉ!!!


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逃走者エスケープ通常型弍式レベルセカンド遠方回避劇ロング・アヴォイド

 攻撃に対し、長距離の回避、逃走を行う。

 逃走距離は、最長5Km、最短500M間の

 となる。使用時、速度と防御

 力が上昇する。

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さて、何処へ向かおうか。

自分の居場所、と感じられるところが無いあまり、別の世界へ飛んでいってしまいたいと思うようなこの俺に行くアテなんぞ存在するのだろうか。


心の声が正直に答えてくれた。

『無論、そんな場所など存在しない!』

そう!それが事実。え、どうすんのよこれ…


もういいか、夜の真っ暗な森の中でも歩いて

お先真っ暗を視覚的に感じよう。

思い出と感傷にでも浸ろうか。


この時間帯のアニメの感想交流会が懐かしい…オプチャでみんなで話してたな、

†マキシマ・MSIMA†さん、いい人だったし、こっちの世界のことよく分かってくれたっけ。たまに真名で呼んだら顔真っ赤にしてだけど。魔王ってのはこの世界には居ないからよくわからなかったけど。本当に良い人だった。いつかまた行けるかな。自分から死ぬ気は一切ないからまだ、すぐにということは無いだろうけれど。



踏みしめていた土と落ち葉の音に混ざるようにして川のせせらぎが聞こえ始めた。下から吹き上げてくる風の音に崖が近付いているのを感じる。その崖は、俺が前々回に死んだ場所。落ちた後、目が覚めたら向こうの世界に居たって話だ。それにしても、俺の死体ってどうなってるんだ?まあ、身を乗り出して落っこちても向こうに行ける確証は無い。何より、今はゆっくり逃亡気分なわけで。一年も経ってる訳だし、見つけたところでどうということも無いだろう。



真島さんには急に居なくなってしまって悪いが、DVDプレイヤーと圏外のスマホを真島さんだと思って持ってい…無ぇ。無計画、無鉄砲、無一文、取りに帰ったら今度こそ逃げられなくなる。まあそんな時もあるか、な残念だけど。


すまない、真島殿。拙者はもう征くでござる…。と、


思い出に浸って気を紛らわせていたが、

そろそろ疲れてきた。先ほどから、別れを連続しているが案外そう大したことじゃないと感じている自分は薄情者なのだろうか。だが、あの母の反応を見て親譲りである。そのことは十分に理解できた。実際昔からあんな感じだったし。


それにしても、変わらない、相も変わらず暗い森、怖ぁ、危ないものが出ないって分かってても、考えなしに逃げるもんじゃ無いな…こっち来てから食べ物もまともに食べてない。崖に沿って歩いて、魚でも獲れるかな。生憎の人里近くだし、サバイバル生活までとはいかないだろうけど。


あと少しで、川の下流辺りだろうか。崖と言うからには滝の上ではあるのだが。

確か下の方になら、確か町が有った気がする。幼い頃に2、3回連れて行ってもらっただけだから曖昧なのだが。滝の下だから水害が多かったってよく聞かされてたけども、今日の天気なら大丈夫だろう。俺の住んでた村からは近いという距離ではないし何より追ってくるかどうかなんて怪しいものだ。まずは町で金でも集めるかな。


なんだっけ、これスローライフって奴かな。魔物も山賊も出てこない平和過ぎる逃走。我ながら本当にどうしようもない反抗期だ。属性魔法、魔術系統未選択のまともに使えない俺だが、いざとなったら食い逃げ…はまだやめておこう。犯罪に手を染める気は無い。にしても、腹が減って仕方が無い。寝てただけなのに、なんで…



パチパチ…

火の音?こんな所で、家出少年かな?

最近の子供はアウトドアだなー。

人影、思ったよりも小さい?、やべ、肉の匂いとかして来た…飯テロ恐るべし。夜の森で放浪している成長期そして、反抗期には抗えない力が体を吸い寄せていく。


「次はどこへ向かおうか、ぶつぶつ」


おっ。俺と同じく彷徨える人が居るとは感心だ。独り言の盗み聞きは感心できないが。


      ポキッ…、


おおお、木の枝ぁぁ!おまぇ!

早速やりやがったなぁ!

「ん?」


バレた、か?バレてしまったか?

とてつもなくベタなやつで。普通に不審がられるぞ、夜の森の中で後ろから眺めたなんてバレたら。影を見る限り割と小さい子だったぞ、他人に見られたら誇り高き?ショタコン扱いされちまうぜ。危ない危ない、


「うん、そろそろ焼けたかな。」


あれ?大丈夫か。こちらからも姿は見えてないし、これ以上腹の減る前に立ち去ろう。

うわ、肉の匂いぃ!再び。


「ねぇ、おにいさん?」


うん、立ち去ることにしよう。予定というかさっき立てた方針通りにまずは進むとしよう。ひっ一晩くらい何も食べなくても平気だろう!


「おーいおにーさーん?」


幻聴が聞こえるが、心配はいらない。飯は自分で調達するまでだ。うわぁっ安心したまえ少ねん゛ッッ肉の匂いがぁぁっ!お、おれはここを立ち去って…。現実逃避をするような人間とは言ってもいたいけな少年に飯を奢ってもらうほど俺はまだ腐っちゃいねぇ!


「肉食べなくていいのー?」


「これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻徳これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴…」


「うぇ、おにー、さん?大丈夫ですか?」


「あ、ぁぁ!さっきのセリフの中から間違いをひとつ見つけてみよー!ハハハハッハッ!」


「おにぃ、いや。あの、不審者ですか?」


しまった、我を見失っていた。

「おっ俺は、ただの逃亡者エスケープですね。…」

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