第2話 おはようございますエスケープ


 時の経つこと数時間───


後頭部の痛みを感じて…

意識はハッキリしてるが体が動かない


嘘だろ?起きれないんだけど、目も開かないし

死んだの?アレでまた、いや金縛りなのか?

ごめんなシオン、俺が弱いあまりに目の前で死んじまうなんて、確かに逃げようとしたのは悪かったけどさあ加減くらいはあってもよかったと思うんだが。


あぁ、母さんの声が聞こえてくるよ


「なんてこった、一年ぶりに顔を見たかとか思ったら死んじまって、我が子よ。葬儀をする気は一切ないからさっさと成仏しておくれ。未練なんか何もないだろう」


いや、両親は見事に健在な筈。じゃあついでに俺も生きてる…のか?確かシオンに後頭部を攻撃されて、ならここは俺の家だと考えていいだろう。目は開かないし、体も動かない。折角の形だけの逃走スキルすら使い損ねて、そのうえ気絶までされられるとは。不覚というか、もう何も残らない一般市民以下…


しばらくして、また母さんの声が聞こえてくる。


「シオンちゃん。ありがとうね、遺体だけでも見つけてくれて。」

深刻な言葉の割に声のトーンが明るく聞こえる。


「え、いや、あのまだ生きて…(殺るつもりは無かったんだどけやり過ぎちゃったかな。つい興奮して。)ますから…」


「あっはっは〜。面白い冗談だねぇ。生きててくれたら良かったよぉ本当に。」


ん〜不謹慎!お母さんなんでそんなに僕殺そうとしてくる訳?しかもなんか笑ってるよね?

表情が見えないからどういう感情なのかわからないし余計に怖い。本当に親かと疑うわ



再び、経つこと数時間───



意識だけを取り戻してからどのくらいの時間が経ったのだろう。シオンがずっーと真隣に居るのを感じる。いや気配が尋常じゃない。何分かおきに何か言葉を発しているのは分かるのだが、さっきよりも意識が朦朧としている。聞き取れなくはないのだが…



「起きて、エスク。早く、お義父さんが帰ってくるってよ。」


嘘、だろ、?

この一言は意識を取り戻すには十分過ぎるものだった。頭が急に回転を始める。


げ、あの父親かよ。最悪すぎる。本っ当に寝てられない。あと漢字を間違えてるぞシオン。あんな厳格親父なんか相手にしてられるかよ。俺は真面目さん成りたい訳じゃないっつーの。何より俺のスキルが使い物にならない事くらいあいつが一番知ってるだろ。父方がエリート家系のお陰で面倒な伝統だかなんだか知らないけど、そんな重圧もあってのこの性格なんだから。

頭は動いても、反抗期みたいな愚痴しか出てこない!実際客観主観共にそうなんだけどさあ!



それはそうとして、

俺、シオンにそんなに悪いことしたかぁ?

ここまで体動かないの人生初だぞ?


ガチャ


あ…玄関の扉が開いた。マズい



まだ、下で母さんと話してるみたいだ。

ここは2階、時間はある 体よ、動けぇっ!

まだあの親父とは話したくねぇ!


今のうちに!気合いで



すっ──


やったぁ起きれたぁ。体が動くという安心感。

あ、やっぱりシオン

ベッドの真隣でじっっと俺の顔を見て、

「あ、おはようございますエスケープ。」


「う、ん、おはよう」

引くほどすごい作り笑いになってしまった。なにゆえの敬語?


まあおはようって、もう星が出てるけど…

開いている窓からこちらを見つめているように


どうしたものか、


「えーっと、無事?」


「さっきまで寝込んでたの見てたよね?」


「え///いやぁ、それほどでも。」


「うん、褒めてはいないよ。威力は凄かったけど。」

俺の居ないうちにまた相当強くなっていた。

おそらくあれは一年ぶりにくらった魔法か何かだと思うのだが。クリーンヒットだ。

ますますここに入れなくなった


「5分くらい気絶させるだけのつもりだったの!

 ごめんなさい!」


なんでぇ?出会い頭でそれはないでしょ、

感動の再会風な挨拶してくれたじゃん。

しょうもないスキルすら使えなかった俺が言えたことでもないけどさ。


いや待てよ?攻撃にスキル?


「ねぇ、シオン。俺にゆっくりでいいからもう一回攻撃してみない?」


「え…もしかして、さっきのでエスクがあっちの方に目覚めちゃった…?私が責任取るから。大丈夫だよ。落ち着いて、」


なんだよあっちの方って…。

ハッキリしてくれ、おそらく俺はそうじゃないから安心してほしいんだが。

上手くいけば俺の勝ち。だ、

両親が階段を上がってくる音が聞こえて来るが、もうどうってこともない。


「じゃあ…」


「ゆっくりね、ゆっくりな。力加減してね?」


「うん!分かった。さっきの半分未満にしておくから。私が責任取るよ、」


緑色の小さめの魔法陣が浮かび上がる。

確かシオンは、木属性の植物系統の魔法。

さあいつでもかかって来い。

中から植物のつたがこちらに向かって来る時、


      そして、

          来た。


直撃する寸前で、夜風に紛れて

「スキル発動。

    

    逃走者エスケープ通常型弐式レベルセカンド

       

          遠方回避劇ロング・アヴォイド!」


完璧なタイミングで父親が階段を駆け上がり、部屋に入ってくる。


「あ、待てっ!エスク!

 父親と何があったか話さんかーっ!

   一年間も何処に消えてやがった!」


「久し振りだな、親父!

   これでまた逃げさせてもらうぜ!」



そうして、見事に窓からの逃走をはかった。

作戦通り極まりない。受け身のスキルだが、攻撃が来ることさえ分かっていれば、これを利用して遠くまで逃げることも余裕!我ながら良い案だ。



「あの世界で学んだ事、其の一

  ・ハズレスキルは悪用すべし!」


「俺の勝ちだ」

     

       シオン、感謝する!


窓を飛び出し、家族への挨拶も済ませたことだし、さっさとどこまで逃げようか──

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