回避スキル使いは現世から帰ってきても現実逃避をするようです。〜旅は道連れとは言えど、本物の逃亡者の道連れは!?〜

玄花

回避スキル使いは旅に出るようです?

第1話 お帰りなさいエスケープ

 スキル「逃走者」

・自身、味方が物理的ダメージを受ける際、その直前に相手の攻撃パターンを予測し、逃走する。

・または逃走させる。

※基本として、受身のみでの発動。そして、発動の際には視認を要する。


 ただ、ただそれだけ。


 ある日、森の中で──。一人の少年は、叫んでいた。というか嘆いていた。その声はただ虚しく鳴り響く。いわゆる読者であろう方々が呼ぶ異世界という地の片隅で。



「あ゛あ゛あ゛なんでこんなことになるんだよーー!!!」

 最悪だ、折角の異世界にほんでヲタクライフを満喫していたっていうのになんでこっちに戻ってきちゃうかなー。あぁ、あの世界で見覚えのあるアニメ通りの異世界だ……。本っ当に憂鬱だ。



 ─────────────────────

 エスケープ・チューナー(17)

 本作の主人公。

 魔術系統 未選択

 固有スキル 「逃走者」Lv.2

 性格 自由人、逃げ癖あり、優しい?

 備考 手違いの逆異世界召喚により、現世にて一年間の生活の後、今に至る。

 暫くの期間を過ごしていた。その際関わった人間達の影響か、少なからず重度のヲタク気質が染み付いている。また、スキルゆえの逃げ癖もしっかりと。

 ─────────────────────


 さて、これで死ぬのは2回目か、初回は死だったかどうかは怪しかったけども。回避スキルなんてあったもんじゃない。視認直後に逃走なんかそう簡単に出来るかよ、何なのあの武器、手の平からあんな速度で金属製の球が飛んでくるとかあり得ないだろ、魔法の無いじゃ。はぁ〜……俺も何処かの主人公みたいにチートスキル、持ってたらよかったのになあ!!!!



 にしても、どうしたものか。ここは見覚えのある森なのだ。一年ぶりのこの世界。偶然とはいえ、日本から此処にまた戻ってくることになるとは……。やはり自分の世界に居るという安心感はあるのだが、この自分の家の近所に居る、ということはつまりアレだ長い間消えていた行方不明者が何食わぬ顔で帰って来たという扱いに成りかねない。怖いんだよそういうの。


 そう、この俺、エスケープ・チューナーは何を隠そうに日本帰りのと呼ばれるものである。


 やったー、遂に異世界にやってきたぞー!なんてノリ、出来るものか!逃げることしかできないこんな落ちこぼれに。はは……転生ボーナスとかいう怪しげな言葉もあるかどうか。いや無い。


「ステータス」

 そう俺は呟く。うん、前と変わらないな何も……。流石俺、期待出来ないを裏切らない。

「いや待てよ、なんだコレ?」

 来たか?俺の可能性!俺の目に映る半透明な板の上に通知のようなものが入っている。



 追加スキル、「妄想」



「はい、残念でした」


 居場所のないこの俺は何処はと逃げればいいものか。この明るい木々の中では近所のおばさま方に見つかりかねない。それはそれは厄介だ。あのどう返していいかわからないおかえりぃの一言、恐ろしいに尽きる少し離れて、死ぬ間際に持っていた借り物のDVDプレイヤーでアニメでも見よう……。



 確かここら辺に登りやすい岩があったはず上でゆっくりと現実逃避───



 時の経つこと数刻……。



 ザッ、ザッと足音が近づいて来る。何者だ?一応の地元だから魔物も現れないし、危険人物もそうは来ないことを知っているが警戒しなければ。プレイヤーをたたみ、周囲をみわたっっ!、?気付けば少女は俺の前に立って俺のことをまじまじと見つめていた。まるで、有名を見るような目で。


「やっぱり、エスク、だよね…?」


「あ、あうん。そうだけど」

 後ろに居たのは確か幼馴染の、

「ごめん、名前何だっけ……ほら一年振りだから、ね」


 作り物でない流れるような長い青髪、自然過ぎる青眼の美少女。改めて、ここがコスプレイヤーなどの居ない、向こうからの異世界ということを理解する。


「ええッ!?10年来の知人である私を忘れたの⁉︎」

「スイマセン」


「即答カタコトってもう。私はシオン!シオン・セーファー!あなたの幼馴染!」


「忘れてたとか、ありえないんだけどうっうっ……こっちが、どれ、だけ、心配したか分かってるの?」

 そして、なぜか泣き始めた。



「だからごめんって、だから泣かないでぇ」

 1年ぶりとはいえそこまで泣くほどのことかぁ?異世界を漫喫して来た自分の言えることじゃないんだけど。幼馴染、ねぇ……。


「一年もどこ行ってたのよ本当に、家族の方も心配してたのよ?もうっ、なき、止んだけど、べつに寂しくなかったわけ、じゃあないんだから」


 死んでました、なんて言えなさそうだわこれは異世界行ってましたなんてことも同じくして……でもなんか、怖いんだよなぁこの子。何が怖いんだか、本能的過ぎて言葉では言い表せないような会話の表面は、至って俺のことを心配してくれていたようでいいのだが。



「お帰りなさい、エスケープ。もう、逃がさないからね」



「うんっ!心配感謝!ごめん逃げるわ!」


 いたいけな同年代の少女から、どこかにヤバめのオーラを感じたため、戦略的撤退ならぬ、普通にマジの逃走を開始したのであった。




 ───思い出した!アイツは!シオンは


     あの世界でいう、ヤンデr……





「だから絶対逃がさないって言ったでしょ?」

 この一言を境に、俺の意識は途切れたのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る