出会い
「38℃、疲れでもたまってたのかしらね。学校には連絡しておいたから今日はゆっくり休んでいなさい」
そんな事を話して母さんは部屋から出ていったみたいだ。
どうも僕は風邪を引いてしまっていたみたいだ。昨日のダルさは色々自分でやらかしてしまった疲れだけだと思っていたら風邪のせいでもあったらしい。普段だとキツいだけだから嫌なのだが、今はあまり学校に行きたくなかったのでちょうどいい。
「本当に昨日は我ながら酷かったな、後でちゃんと謝ろう」
そんな事を思っているうちに眠気がきて、うとうとしているとメールがきていることに気づいた。二通届いていて一つは大地からだ。内容は体調への気遣いと新入生歓迎会の連絡を他の副委員長に代理で伝えるというものだった。
「そういえば今日僕がみんなに伝える事になっていたんだったっけ。大地にも迷惑かけてることだし、ちゃんと会ったら謝ろう」
そしてもう一つは悟からだ。こっちは帰りに寄ってくれるとのことだった、勝手にキレた僕に対して距離も置かずにこんな気遣いが出来るあいつは相変わらずあいつは大人だな。
二人にすぐに返信した後は悟が来たときに起きていられるように寝ておくことにし、ゆっくりと目を閉じて夢の中に吸い込まれて言った。
「凪野のくせに生意気なんだよ、雪村と仲がいいからって調子に乗りやがって」
「そんなことない、僕は調子に乗ってない…」
これは夢?
「うるさい!俺らからしたら調子に乗ってんだよ!黙ってろ」
「僕は何も悪くないのに、家が近いのだって僕が望んだことじゃ…」
「黙れ!」
もういいじゃないか、こんな記憶忘れたいのに。何でこんなにはっきりを思い出してしまうんだ。
「お前らここで何してんだよ」
「げっ、遠野!?」
「お前らここで何してんだよって言ってんだ!」
「やべ逃げろ!」
あいつらが逃げていく。僕は助かったのか。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう。えっと君は」
「遠野悟だ」
「遠野くんか、ありがとう助けてくれて」
「あんな集団リンチみたいの見逃せるわけないだろ、あと俺の事は悟でいい。君は?」
「僕は凪野光です。好きなように呼んで」
「じゃあ光だ、これからよろしくな」
「うん…」
「何だ?まだ何かあるのか?」
「いや、今までこんな事無かったから戸惑ってる、正直君のこともまだ完全に信用したわけじゃないんだ」
「ま、いきなり全てを信用しろってのは誰だって出来ねーだろ」
「えっ?」
「だってお前、入学式とかで少し話したやつをいきなり信用出来るか?普通は出来ないだろ。その出会いから時間を積み重ねて信用していくんだろ、違うか? 」
「…そうかもしれない」
「だろ?だから俺の事はまだ信用しなくていい、ただ友達になるのは許可してくれよ」
「友達?」
「そう友達だ、これからたくさんの時間を共に過ごしていくためにな」
「君にも迷惑がかかるかもしれないよ」
「構わないさ、楽しい時間も辛い時間も共有するのが友達だからな、けどお前が俺を信用出来ないって思ったらいつでも離れていい。文句は言わないさ」
「分かったよ、とりあえずお試しってとこから」
「おっし!絶対にお前の信用を勝ち取ってやるからな、覚悟しとけよ!」
そうだ、あの時はまだ悟の事を知らなくてただやられっぱなしだった。あの時悟が来なかったら今の僕はいなかったかも知れない、だからこの記憶はどんなに辛くても忘れることはしないんだ。君との大切な出会いの記憶だから。
そして目が覚め、ゆっくりと目を開けると悟が顔を覗きこんでいた。
「「うわっ!」」
「お前何してるんだ!?」
「いや~なかなか起きねーなと思ってたら急に起きたからびっくりしたぜ」
「こっちの方がびっくりしたわ!何が悲しくて寝起きからお前の顔を至近距離で見なくちゃいけないんだよ!」
お互い言うことを言うと顔を見合わせて大笑いしてしまった。
「なぁ悟?」
「何だよ?」
「昨日は怒鳴って悪かったな」
「そんな事か、気にしてねーよ」
「こっちが悪かったから一言言っておこうと思ってな。『親しき仲にも礼儀あり』だ」
「おっ?やっと俺はお前と親しくなれたのか?」
「えっ?お前もしかして覚えているのか?」
「当たり前だろ、大事な出会いの日だぜ」
悟は笑いながら言ったが、僕は少し涙ぐんでしまった。覚えているのは僕だけだと思っていたのに悟まで覚えていてくれるとは。
「おいおい、何泣いてるんだよ?感動しちゃった?」
「うるさい!目にゴミが入っただけだ!」
「またベタだね~」
「…これからも迷惑かけるかもだけどよろしくな」
「俺たちは『友達』だからな、そんなのは気にしないさ。こちらこそよろしく」
やっぱり悟は全部覚えていてくれたんだな、それなのに僕は自分だけで抱え込もうとして失敗した。それは悟に対して失礼な事をしてしまったと深く反省した、だからこれからは遠慮は無しだ。
「じゃさっそく相談だ、五組の鈴木ってやつについて」
「そうこなくっちゃ!」
「ちょっと調べてほしいことがあるんだ」
「いーぜ、何でも調べてやるさ」
「じゃあこいつの…」
何もかも一人で抱え込んで心が折れかけたけどもう大丈夫、僕は一人じゃないことがはっきり分かったから。
もう僕は逃げないし正面からしっかり戦うことが出来る。これからが本番だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます