違和感


 あの後に悟とゆっくり話をして、ぐっすり眠ると体調は良くなっていた。溜め込んでいたものを吐き出したことでストレスが緩和されたのも良かったのかもしれない。




 今日は学校に登校し、特に問題が起きることなく昼休みになった。そして僕は悟と一緒に奏にバレないようにこっそり屋上に行き、昨日頼んでおいたものを聞くことにした。








「やっぱりいい噂は聞かないな鈴木のやつは」


「それは何となく分かっていたけどな、どんな情報を掴んだんだ?」


「まぁよくある話で女子には優しいが男子に対して扱いが酷いとか」




「うーん、確かに酷いが露骨にやるやつが少ないだけでそんな感じのやつは探せばいるからね。決定打にはならないか」


「じゃあこれはとっておきの情報だ、鈴木が委員長になるために担任を買収したって噂がある」


「何でわざわざ委員長になるために買収しなくちゃいけないんだ?人気があるわけでもあるまいし」


「それがうちのクラスの委員長が雪村になったって話がすぐに広まったらしいんだよ。それで委員長が決まっていなかった五組は男子全員が立候補したらしい」


「なるほど」


「余りの多さに担任は抽選をするとして結果は明日伝えるということで強引に切り上げたという話だ」


「そこに鈴木が絡んできたってわけか」


「そういうこと、あいつの家はちょいと裕福だからな。そんで担任に接触して委員長の座を奪い取ったってわけだ。表向きは抽選で当たったって形でな」




 情報を集めるうちに思った以上に鈴木が厄介なやつだということは分かった。しかし裏口のルートを使ってまで委員長の座を奪い、奏に執着する意味が分からない。ただの純粋な恋愛感情だけでここまで執着出来るものなのか。




「なぁ悟、調べていて何か違和感を感じたことは無かったか?」


「そうだな。普通に雪村に執着し過ぎって感じはしたが」


「やっぱりそう思った?何か変っていうか違和感があるよな」


「そこを詳しく調べようと思ったんだがなかなか情報が出てこないんだよ」


「そこまでは無理か?」


「それはまだ分からないさ。これからもっと詳しく調べていってみるよ、もう少し時間をくれ」


「分かった、あと確証が持てる情報を掴むまではくれぐれも奏には伝わらないように 」


「了解だ」






 情報交換が終わり、昼休みもそろそろ終わる頃なので教室に戻ろうとしたときに悟がとある提案を持ちかけてきた。






「ちょっと待ってくれ光」


「何だ?」


「この話だが清水にも相談した方が良くないか?」


「二人じゃキツイから大地あたりには頼もうと思っていたけど何でまた清水?」


「いや、今の話の感じだと鈴木と雪村が二人きりになる状況は少ない方がいいだろう。俺達が張り付いているよりも女友達の清水の方が自然だろう」


「それもそうか、ただ委員長同士で話がしたいって言われた時はどうするんだ?」


「それこそ大地に伝えてアイディアを募った方がいいぞ、清水が付いていればそんな何回も呼び出す事も無いだろう」


「そうだな、帰りに清水を誘って相談してみるよ」


「よし、決まりだ」














 今日の授業が終わり放課後になった。予定通り清水を誘うべく清水の席に向かう。






「やぁ、清水さん。今日放課後空いてるか?」


「お、凪野くん。体調良くなったんだね~放課後は一応空いてるよ~」


「じゃ悪いが少し付き合ってくれ。そんなに時間は取らせないから」


「ちょっと凪野くん、七海をナンパかしら?」


「げっ、奏!」


「ちょっとリアクション酷くない!?」


「そんなことより何の用だよ!?」


「あんたが七海をナンパしようとしてるから止めようとしたんじゃないの!」


「えー私凪野くんにナンパされてたの~?」


「そういう話じゃ無いから!もっと真面目な話なんだよ!」


「じゃ真面目な話って何よ?私に話せない内容なの!? 」


「えーっとそれは…」


「ほら見なさい、それで信用しろってのが甘いのよ」


「とにかく!今は急いでるからまた今度ゆっくり話すよ!」


「そんなこと言って話した事無いじゃない、あんたは!」


「そんなことないよ~さっ行こう清水さん」


「おーそんなに引っ張らないで~」


「ちょっと待ちなさいよ!ひか…凪野くん!」




 後ろから奏の声が聞こえたような気がするが、ここはとりあえず無視の方向で。




「何なのよ、あいつ。『体調は良くなったのね、心配したんだから』って台詞くらい言わせなさいよ。ずっとタイミング見計らって放課後まで待ってたのに…」




 彼女の呟きは伝えたい人に最後まで伝わることなく静かに消えていった。

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