第7話 まとめてぶっ潰して差し上げますわ!!~宮廷武闘大会・予選(1)~

 帝都に、朝から花火が上がる。

 ――宮廷武闘大会、予選の当日である。


「頑張ってください、リディア様! チケットが取れなかったので会場には行けませんけど、リアルタイム配信で応援してます……!!」

「ありがとう、フラム。行ってきますわ」


 宮廷武闘大会は、本戦の前にまず予選が開催される。

 予選に参加する令嬢はリディアも含めて計五十名。

 この五十人が十ブロック五人ずつにランダムで分けられる。五人で一斉に戦い、最後まで立っていた一人だけが本戦に進めるというごくシンプルなルールだ。

 この予選で、五十人が一気に十人まで絞られる。


『全国八千万の帝国国民の皆様こーんにーちは~~!! 実況のシトリンっス!!』

 市街各所に設置された公共ディスプレイに、金髪の少女の姿が映し出された。


『ついに始まる五年に一度の宮廷武闘大会、本日はこちらのヴァンクール闘技場より予選大会の様子をお届けするっスよ~!!』


 ヴァンクール闘技場は約一万人の観客を収容できる円形闘技場である。

 観客席は貴族席と庶民席に分けられており、いずれもほぼ満席の状態だった。庶民席の方は推しの令嬢を応援する横断幕が掲げられ、観客達は各々応援グッズを持参してお祭り騒ぎだ。


 実況席には、いつもホログラムで見ている二人が座っていた。

 金髪でメイド姿の実況シトリンと、解説の青年神崎である。


 ――あの二人、実体がありましたのね……

 決闘の際にはいつでもどこでも現れるため、AIか何かだと思い込んでいた。


 自分の出番が来るまでの間、リディアは控室のディスプレイで他ブロックの戦いを観戦していた。


 ――五人同時の戦い……か。

 普段の決闘は一対一が基本のため、多人数バトルは勝手が違う。――とはいえ、帝国最強の淑女を目指すのであれば、予選など軽く突破できなければお話にならない。


「腕が鳴りますわね……」

 リディアは不敵な笑みを浮かべた。




『――さあ、続いてはいよいよ本予選大会でも注目のブロック! 参加するご令嬢を紹介するっス! まずは皆さまおなじみ『鮮血令嬢』ことリディア=マイヤール伯爵令嬢~~~!!』

 シトリンによるテンションの高い紹介とともに、リディアはレッドカーペットを踏んで闘技場の円形舞台へと入場した。


 深紅のドレスに身を包んだリディアの姿は、観客席からは闘技場に咲いた一輪の薔薇のように見えることだろう。

 リディアが姿を現わすと、観客席からは大きな歓声と同時にブーイングも湧き上がる。彼女には、ファンも多いがアンチも多かった。


 ――まあ、これまでたくさんの淑女の鼻を潰してきたのだから当然と言えば当然ですわね。

 ブーイングは無視して、リディアはドレスを広げて観客席に向けて優雅に礼をした。その所作の美しさに、アンチのブーイングも一瞬静まり返る。


 リディアに続いて、対戦者となる四名の令嬢が次々に紹介され、闘技場へと入場してくる。

 セリーヌ、クレア、キャサリン、そしてサラという名の令嬢達だ。いずれも鮮やかなドレスを身にまとい、優雅な所作で礼をする。


 武闘大気は、最後まで立っていた一人が勝ちというシンプルなルールである。しかし、万が一引き分けや勝負がつかない状況になった場合は、振る舞いの優雅さという芸術点を加味して勝者が決定されることになっていた。――つまり、この闘技場への入場の時点からすでに勝負は始まっているのだ。


 舞台上に、五人の淑女が出揃った。

 なお、この舞台にはいつもの決闘時のようなビームによる仕切りはない。広い円形の舞台上で自由に戦うことができる。


『さあ、この中で最後まで立っていられるのは誰なのか~~!?』

 試合開始のゴングが鳴ると同時に、リディア以外の四人中三人が一斉にドレスを脱ぎ捨ててレオタード姿になった。

 そして、三人は示し合わせたかのように一斉にリディアに向かって走ってくる。


 ――こいつら、手を組んでいる……?

 リディアはすぐに気が付いた。――厄介な私を最初に全員で叩こうという魂胆ですのね。


「あらあら、群れないと何もできないだなんて雑魚丸出しですわね。――構いませんわよ。そちらがその気なら、まとめてぶっ潰して差し上げますわ……!!」


『開始早々三人がリディア様に向かって行った~!! リディア様、完全にマークされている! いきなり大ピンチか~~!?』

『多人数の戦いではどのように対戦相手を絞るかといった戦略も鍵となります。これも彼女達の作戦なのでしょう』


 会場内に実況と解説の声が響く。

 戦いの様子は複数台のドローンカメラによって様々な方向から撮影され、会場内に設置された大型ディスプレイに映し出されていた。


「ローズマリー様に認められたくらいでいい気にならないで! この平民上がりが……!!」

 リディアに襲い掛かってきた令嬢の一人が言う。


 その令嬢の顔に、リディアは何となく見覚えがあった。――先日のローズマリーのお茶会に参加していた令嬢の一人……だった気がする。恐らくは、ローズマリーの取り巻きの一人なのだろう。

 先ほどの紹介によると、確かセリーヌという名前だった。


「――高貴さとは出自ではなく、魂の気高さですわ。あなたには気高さが足りないようですわね」

 リディアは、セリーヌを挑発するように唇を歪めて嗤った。


「何ですって……!?」

 セリーヌを含む三人の令嬢が、リディアに対して次々と波状攻撃を仕掛ける。

 並外れた動体視力によって、リディアには三人の攻撃がまるでスローモーションのように見えていた。舞うように軽やかなステップを踏み、リディアは三人の攻撃を余裕で受け流す。


「どいつもこいつも……、お話にならない雑魚ですわね。……がっかりですわ」

 深紅のスカートがひるがえり、観客席から感嘆の声が漏れた。


 ――もうそろそろいいかしら。

 観客を楽しませるのも淑女の務めではあるが、体力に余裕のあるうちに人数を絞っておきたかった。


 その時、セリーヌ以外の二人の令嬢が互いに目くばせした。

 二人は、タイミングを合わせて左右から同時にリディアに殴りかかってくる。


 ――甘いですわね。バレバレですのよ。

 二人の攻撃をギリギリまで引きつけて、リディアはその場から跳躍した。


「「…………!?」」


 二人には、リディアの姿が突然視界から消えたように見えたはずだ。

 殴りかかる拳の勢いを止めることができず、二人はお互いの攻撃をもろに食らった。みぞおちと顔面に、それぞれの拳が食い込む。


『じ、自滅した~~!! クレア様、キャサリン様、同時にダウン……!!』

『お互いのパンチの威力が仇になってしまいましたね……。挟み撃ちにしようとしたようですが、リディア様が一枚上手でした』


 ――これで二人消えましたわ。……残るはセリーヌと、あともう一人。


 リディアはセリーヌの目の前に着地すると同時に、床を蹴って一気に距離を詰めた。

 そして、その勢いのまま拳を叩きこむ。


「くっ……!!」

 セリーヌはリディアの攻撃をガードした。――が、リディアのパンチの重さにセリーヌの表情が歪む。


「ふふ……、あなたは少しは私を楽しませてくれるのかしら……?」

 リディアは凶悪な笑みを浮かべた。


 セリーヌの顔に恐怖の色が浮かぶ。

 ――三対一で倒すつもりだったのに、どうしてこんなことに……。恐らく、そんなことを考えているのだろう。


 ガードの上から、リディアはセリーヌに連続でパンチを浴びせた。

 顔面にジャブを入れるモーションを見せてフェイントをかけると、咄嗟に頭を守ろうとしてセリーヌのガードが上がる。それを見計らって、がら空きになったセリーヌの腹部に容赦なく蹴りを入れた。


「うぐぅっ……!!」

 セリーヌはたまらず後ろに吹き飛び、その場で嘔吐した。

「あらあら、粗相だなんてみっともないですわね」

 リディアはセリーヌを見下ろして嗤う。観客席からは歓声とブーイングが同時に上がった。


『リディア様の容赦ない攻撃~~!! まるで悪役! 悪役令嬢!!』

『あれは、内臓にダメージ入りましたね……』

 しかし、セリーヌはまだダウンしていなかった。ふらつく足で立ち上がり、リディアを睨みつける。


「あら、意外にしぶといですわね」

「こ……、この程度で倒れたら、ローズマリー様に顔向けできないのよ……!!」

 気丈にも、セリーヌは叫んだ。


「――なるほど、金魚のフンにもそれなりのプライドはありますのね。……いいですわ、その根性に免じて一撃で終わらせて差し上げますわ」

 リディアは拳を握り、セリーヌに向けて一気に走り込む。


 弾丸のように迫ってくるリディアのスピードに、セリーヌが恐れをなしているのが手に取るように分かった。完全に腰が引けてしまっている。

 それでも何とか踏みとどまり、セリーヌはカウンターを狙おうとしていた。――さすが、宮廷武闘大会の参加権を得た淑女である。その気概だけは評価できた。


 ――でも、無駄ですわ。カウンターの隙なんて与えない……!!


 リディアがパンチを打とうとした、その時だった。

 不意に、セリーヌの体が背後から持ち上げられた。


「…………!?」

 突然のことに、リディアは思わず動きを止める。


 何が起こったのか、セリーヌには全く理解できなかっただろう。次の瞬間には、セリーヌの体は成すすべもなく背面から床に叩きつけられていた。


『バ、……バックドロップ~~!? セリーヌ様、完全に虚を突かれた~~!!』


 セリーヌに技をかけたのは、今まで気配を消していた五人目の令嬢だった。

 射干玉の長い黒髪に、切れ長の瞳。

 前合わせで袖の長い異国風のドレスをアレンジし、下半身は黒いレースのスカートがふわりと広がっている。


『いや、これは裏投げ……? いずれにせよ、綺麗に決まりましたね。卑怯なようにも見えますが、多人数バトルではこれも戦い方の一つです』


 受け身を取ることすらできず、セリーヌは完全にダウンした。医療スタッフが素早く駆け寄り、気絶したセリーヌの体を担架に乗せて運んでいく。


「――人の獲物を横から奪っていくなんて無粋ではなくて?」

 セリーヌを倒した令嬢に、リディアは言った。


「殺れる時に確実に殺るのがわらわの流儀じゃ」

「ええと、あなた……、何てお名前だったかしら」


「わらわの名はサラ=ヴァティス。以後覚えておくといい」

 そう名乗って、サラはニヤリと笑う。


「あら、そう。……きっとすぐに忘れてしまいますわ。人数が減るまで隠れて見ていた臆病者の名前なんて」

 リディアの挑発に、サラの表情が険しく歪む。


『さあ、本ブロックの戦いもいよいよ最終局面だ~~!! リディア様とサラ様の一騎打ち! 果たして本選への出場権を得るのはどちらの令嬢なのか~~!?』

『——ここで一旦CMです』

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