第36話  タピオカミルクティーと友人A


「ねえ、ほら! 絶対あの服とか白峰たんに似合うんじゃない?」


「私に、ですか?」


「絶対似合う、絶対すこい」


 ショッピングモールを行く楽しそうな二人の背を見ながら、俺はタピオカミルクティーに舌鼓を打っていた。


 初めて飲んだが、結構いける。

 これまでは、なんとなく一人で買うのが小っ恥ずかしかったが、今日この場に限っては、なんの恥ずかしさもない。


 そう、何故ならば、俺は今、二人のJKと遊んでいるからっ!


 もはやこの世のJK(女子高生)達全てが愛する飲み物TMT(タピオカミルクティー)。


 そして、俺は今二人の女子高生と遊んでいる。


 つまりは……「えー、飲んだことないのー?」「美味しいのにー」的なノリが巻き起こった末に、


 「いや俺全然興味ないけど、まあものは試しで飲んでみるかあ」的な雰囲気で押し通せる。

 そう判断したのだ。


「……先輩? なんでニヤニヤしてるんですか?」


「変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」


 夢中で、ストローを吸っているといつの間にやら二人は振り返って俺を見ていた。


「な、なんだ?」


 ま、まさか、俺のタピオカミルクティーを狙っているの……か?


「先輩。何を考えているのかは知りませんけど、それはないです」


「というか……ふと思ったんだけど、早見って」


 西宮は何故だが、俺の全身をじっと見た。頭の先から、足の先までゆっくりと。


「どうかしたか?」


「……べ、別に」


 何か言いたかったのではなかろうか? まあ、西宮が言うつもりがないなら構わないが。


「あ、そろそろお昼ご飯にしましょうか」


 白峰が切り出した。確かに、時間は十一時半を少し回った頃だ。


 今日は創立記念日で休みだが、世間的には平日だ。あまり混んではいない。どこでも三人なら入れるだろう。


「ここらなら、フードコート……とか?」


 が、残念なことに、ここいらは最寄りの駅から少し離れた所だから、あまり詳しくない。


「西宮先輩は何が食べたいですか?」


「えーと、私は……手軽なものがいいかな」


「でしたら、やっぱりフードコートにしましょうか」


「だな」


***


 ショッピングモール4階のフードコート。ラーメンやハンバーガーなどジャンクなものから、ドーナツやアイスクリームなどスイーツ的なものまでが、軒を連ねている。


 俺たちは、フードコートの端っこに当たる四人席を取ってから、一人ずつ代わる代わる料理を買いに行った。


「白峰さんは、ラーメンか」


「はい。普段あまり食べないので」


 透き通ったスープの上にはチャーシューと白髪ネギ。これぞ、塩ラーメンって感じだ。


「あんたは、カツ丼?」


「米が食べたい気分でな。そういう西宮はうどんか」


 かけうどんに天ぷらが一つ。金髪お嬢様にはあまり似合わない料理だ。


「とりあえず、食べるか」


「そうね」


 割り箸を割って、それぞれ料理に手をつけた。


 うん。美味い。出汁が効いていて、カツもサクサクだ。


「……美味しい。凄いですね」


 白峰も塩ラーメンを一口啜るなら、驚きで目を丸めた。


 西宮はと言うと、


「やっぱり、かけうどんとちくわ天こそが至高ね」


 あー、凄いわかる。ちくわ天ってなんであんなに美味いんだろうなぁ……。


「そう言えばなんですけど、西宮先輩って、休日は何をしているんですか?」


「え、ええっと」


 白峰の質問に、西宮は目に見えて動揺した。

 まあ、確かにオタ活してますなんて後輩に言えないよな。


 ぷっ。なんか、おもろいな。その展開を想像したら。


「痛っ」


「先輩? どうかしました?」


「い、いや、ちょっと舌噛んだだけ」


 西宮め。今、俺の足を踏んだな? 絶対わざとだろ。

 そう思って視線を送ってみる。


「何ぃー? どうかしたぁー? 早見君」


 西宮は揚げたてのちくわ天を箸で持ち上げたまま、満面の笑みでこちらを向いていた。


 ──『おい、絶対言うなよ。言ったら分かってるだろうな?』

 もはや、その目は脅迫に等しい。


「いや、何もない……です」


「そっかそっか。なら、良い……」


 西宮の言葉の途中で、テーブルの上のスマホが震えた。ピンク色のケースに包まれたスマホ、つまりは西宮のものだ。


「……」


 西宮は無言のまま、電源ボタンを押してポケットへと仕舞い込んだ。


「出なくていいのか?」


「迷惑電話。最近よくかかってくるのよね」


「電話番号を変えてみればどうですか?」


「……それは、ちょっと」


 俺には、その着信相手が見えていた。西宮がスマホを持ち上げるまでのわずかな間に、たまたま目に映ったから。


「西宮。うどん、伸びるぞ」


「そうね。早く食べなきゃね」


 父。西宮が今、迷惑電話だと切り捨てた存在だった。

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