二十七、悪あがき
男にとってカイヤは生きる指針だった。カイヤが是と言えば全てを許せた。否と言えば全てを否定した。カイヤが幸せならばそれで良かった。カイヤが幸せであれば自分の不幸はどうでもよかった。いや。彼が幸せならば自分も幸せだったのだ。
そんな彼が、カイヤが死んだ。何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
カイヤがいないのにどう生きればいいのか。
せめてあいつらに報いを。全ての元凶、陽の娘に。
「ラゼン。なんで籍なんて貰ったの?」
「籍があればこれからこの国に来るのが楽だろう?それに俺の出身は隣国なんだが、、、。あの国は体制が古いから俺の籍が残っているとは思えないしな」
「なるほどね」
「ペイナはこれからどうするんだ?」
「うーん。さっきまでは陽の当主になろうかと思ってたんだけど、ルドさんが別にやらなくてもいいって。陽の家は断絶ってことにするみたい。形だけだけどね」
「じゃあ王都に戻る?」
「ううん。一回育った所、、、クリーグの端の方の村なんだけど、そこに戻ろうと思って。母さんたちと文通はしてるけど、やっぱ顔をみたいじゃない?」
純粋に笑うペイナをラゼンは眩しそうに眺めた。
その瞬間。ペイナとラゼンは横から飛び出た人物に押し倒された。
「お、お前さえいなければ。お前のせいでめちゃくちゃだ」
宴の会場に乗り込んできた男、アーグラの目は血走り、足元は覚束ない。手には血濡れた刃物。顔は返り血に塗れて彼の狂気を感じる。
「ペリアが、あいつがいなければ。いや、その娘もだ。お前らがいなければあの方は、ルド様は、」
うわ言を繰り返すアーグラは部屋にいた王兵によって捕らえられた。
刺されたのはペイナではなかった。直前にペイナを庇うように押し倒した人物、、、サ・グラジュルの腹からドクドクと血が流れている。
「サ・グラジュル様!」
「サ・グラジュル様、どうして!?」
オベリアがバタバタと手当てのために走ってきた。
「サ・グラジュル様、患部を見せてください。止血しないと、」
「良い。わしがここで死ぬことは決まっていること。そもそも陽の家がここまで苦しむようになったのはわしが原因じゃ。わしが方を付けるのは妥当であろう」
「でも、サ・グラジュル様、俺がペイナを庇っていれば、」
彼の護衛であり、サ・グラジュルを守らなくてはいけない立場のラゼンは悔しそうに言う。
「気負うな少年、お主は今までよくやってくれた。それから少女よ。そんな目をするな。そもそもわしは長く生き過ぎた。ここで子孫を守って死ねるならなかなか良い死に様じゃ」
「子孫、、、?」
突然のサ・グラジュルの発言にペイナとラゼンは目を白黒させる。
「さあ。少年少女。わしの手を握れ。最期に追憶の旅に付き合ってくれ」
ペイナとラゼンは言われた通りにサ・グラジュルの手を握る。
視界が暗転した。
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