二十六、救いの手

「んん、、、」


眩しくてペイナは目を開く。どうやら龍の家の屋敷で眠っているようだ。そして右手が何故か温かい。


「ペイナっ!」

「、、、ラゼン?」

「良かった。風神様がいなくなってからしばらく目覚めなかったから」


ペイナは温かい右手を見る。ラゼンがぎゅっとペイナの手を握っていたようだ。


「あっ、これは、その、ごめん」


ラゼンが慌てて手を離した。


「あ、いや、大丈夫。ごめんね、心配させて、、、」


そこでペイナはハッとした。


「オベリアさん!オベリアさんは、」


ラゼンはそっと俯く。


「オベリアさんはルドさんたちのところだ。一緒に行こう」


ラゼンはペイナを先導して屋敷の中を歩いた。

広い屋敷の一室で。


「オベリア、目を覚ましてくれ」

「オベリア。ミーシェお姉ちゃんですよ。目を開けてください」

「脈が弱い、、、。ミュリラ、次は右の棚の薬草を」

「わかった」


眠り続けるオベリアと彼女に声をかけ続けるルドとミーシェ。オベリアのために薬を作るボルックとそれを手助けするミュリラ。


「オベリアさん、、、?なんで目覚めないの?」


ペイナは呆然としてそう言った。その声に誰も答えない。否、答えられない。


「やっぱり、陽の家の直系じゃないから、、、?」


それが理由ならばどうすればいいと言うのだろうか。彼女の血筋は変えられない。時を戻すことなんてできないのだから。

室内が絶望に染まりきった頃。


『祈らないの?』

「え?」


一同がペイナの方を向いたがペイナはそれどころではない。


『君が祈れば僕は願いを叶えるっていうのに。僕は風神。君は巫女だからね』

「オベリアさんを助けてくれるの?」

『それが君の望みならね』


その声が、善き風神の声が聞こえたその瞬間。

銀色の嵐が吹き荒れた。

その風は人々の間を吹き抜けて傷を癒し、オベリアの元で渦巻き去っていった。


『ペイナ、今回は僕の片割れが迷惑をかけたね。迷惑料としてベルア族の寿命を他の人間に合わせておこう。しかしこれは一代限り。きちんと血を薄めるんだよ』

「はい。ありがとうございます。風神様」


ペイナ以外の人が神の力を目の当たりにしてぼうっとしていると。


「んん、、、。あれ、私、」

「オベリア!」

「起きたんですね!」


オベリアが目を覚まし、ルド達がオベリアに抱きついた。

ようやく。終わったのだった。



その日の夜。龍の家の屋敷で。この場にいるのはベルア族の五家の人々と王家の二人、そして王兵が数人だ。しかしアーグラとレビリオの姿は見えない。罪人・カイヤの補佐であったアーグラは影の家の地下室、気を失ったレビリオは別室で寝かされているらしい。


「初めまして。エヴシーテ陛下。ベルア族族長となりました、龍の家が当主、ルドでございます」

「お前が私の従兄弟殿で間違いないか」

「ええ。お言葉の通りで。、、、本日は陛下にお願いがあり、」

「わかっておる。リーヤアイナから嘆願を受けた。それにお前はそれに相応しい行動をした。、、、龍の家が当主ルドよ。貴殿に我が臣下の座を与えよう。と言っても庶子だからそんなに権限は無い。、、、そうだな。この里一帯を治めてくれ」

「謹んで拝命致します」


この瞬間。今まで王家と敵対し、存在が認められていなかったベルア族が正式にクリーグの傘下となった。それはベルア族の生活の向上、そして国内に蔓延るベルア族への差別が無くなっていくきっかけとなるだろう。

その興奮が一段落した頃。


「叔母上。私からもう一点」

「どうした、リーヤアイナ」

「ある者の望みを叶えたく。その者も此度の騒動で活躍してくださいました」

「ふむ。許そう」

「ではラゼン。前へ」


リーヤアイナがラゼンを呼び出し、ラゼンは粛々と応じる。


「貴殿にクリーグでの籍を与えよう」

「ありがとう存じます」


リーヤアイナがにんまりと笑い、ラゼンに何か言うとラゼンの顔が赤くなる。リーヤアイナはニヤニヤしながらラゼンを元の場所に戻した。


「ではここからの進行はルド殿に任せよう」

「かしこまりました陛下。、、、では。此度の一件に関わってくださった皆様にささやかながら晩餐をご用意しております。何も無い田舎ではございますがゆっくりとお過ごしください」


その声を皮切りに空気がどっと沸いた。

しばらくして。


「ねえ、ラゼン。さっき殿下になんて言われたの?顔、すごい赤かったよ」

「うるさいなぁ。ペイナには関係な、、、あるか、、、?まあいい。そのちわかる」

「ふーん」



その宴の平和を壊したのは。一人の男だった。

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