二十五、銀の風巫女
ラゼンが目を開けると、風がやんでいた。そして自分の横にいたはずの少女はペイナではなくなっていた。
いや、姿かたちはペイナなのだが、どこか違う。いつもより爛々と輝く銀の瞳、尊大な笑みを浮かべる口元、そして気配そのものが。
「うん。こちらの世は久々だね」
「銀の風神様、、、」
「いかにも。銀の風神。しかも善き風神だ」
ラゼンはぽかんとしてペイナ、、、銀風神を見た。
「ペイナは、」
「体を少し借りている。この娘、、、ペイナは陽の家直系。だから銀風神に仕える巫女の素質がある」
そう言ってから銀風神はオベリアに目をやった。
「しかしあの娘はなぁ。元から巫女の体では無いのに無理やり入り込んでいる。厳しいかもしれないね」
「、、、っ!」
「まあ善は急げ。僕がどうにかするよ」
そう言うと善き銀風神は悪しき風神の元へ歩いていった。
「悪しき風神」
ペイナは自分の口からスラスラと思っていないことが出てきて驚いていた。ペイナは見えているだけで何も出来ない。見えていると言ってもいつもの視野ではなく、空中からぼんやりと俯瞰していた。
「善き風神ではないか。お前も殺戮を共に楽しもうぞ」
「悪しき風神。僕はそういうのをとっくにやめたんだ。僕は今や創成と創造の神だからね」
それを聞くと悪しき風神は口を尖らせた。
「つまらんやつだ。まあいい。私一人でやるからな」
「それは見過ごせない。この里の住人は僕の子供のようなものだ。王都の人だって理由なく殺す訳にはいかない」
「私に敵対するのか」
「それは僕の台詞だ」
そういうと善き風神は息を吸う。空気が変わった。
「兄たる僕に、創成と創造を司る僕に敵対するのか。悪しき風神。また現世に出られないようにしてやろうか」
その言葉に悪しき風神は頭を抱えた。
「うーん。私とて出られないのはなあ」
「その権限は僕にあると何度も言っただろう?」
「わかった。戻ろう」
何やらよく分からないが神々の話がまとまったのを見てほっとしていると、目の端に自分と同じように浮かんでいるオベリアを見つけた。
「オベリアさん」
オベリアがゆっくりとこちらを見た。
「ペイナさん」
「風神様方の話がまとまったみたいです。やっと戻れますね」
オベリアは下を向く。
「私は、、、戻りません」
「え?」
「というか、戻れないかと。そもそも私の体は神を受け入れられる器じゃなかったみたいです。きっと戻っても、、、」
ペイナは息を飲む。
「でも、わ、わかんないじゃないですか。戻ってみないと」
「あれは私の体ですから。私が一番よくわかります。それに、私はずっと逃げたかった。丁度いい機会です」
「逃げたかった、、、?」
「陽の当主から。私は混ざりものです。純粋な銀目を持たない私は当主という役目が重かった。ずっと辛かった。誰かに助けて欲しかった。ですから」
「も、戻ったら私が陽の当主になります!ですから戻りましょう!」
「ですが、当主になればあなたの自由はなくなってしまいます。それなら現当主の私を後継を有耶無耶にしたまま死んだ方が、」
「いいんです!母に、ペリア母さんができなかった分まで私が守ります。家の不始末は家で片付けます」
オベリアは黙ってペイナを見て、そしてその手を取った。
「戻りましょうか。ですが戻ったあとあなたが当主になるかは別問題です。ルドやミーシェにも相談しましょうか」
「はい!」
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