二十、たった一つの
『殿下は個人的な恨みのためにカイヤを殺したい。そして国のために俺を殺したい、、、』
ペイナは部屋で鬱々としながらこの言葉を反芻していた。ルドが生き残るようにするにはどうすればいいだろうか。この状況をひっくり返す一手は無いのだろうか。
ぼんやりとしていると里の子たちが歌う声が聞こえてきた。
『風神様は二柱 善き風神と悪しき風神 風神様らは探してる 器を器を探してる』
「なんだろう、この歌、、、」
聞き馴染みのあるようなないような曲調にペイナは首を傾げる。その声に答えたのはちょうど部屋に入ってきたオベリアだった。
「ベルア族の童謡ですよ。里の子たちは皆知ってるような曲です。もしかしたらペリア姉さんも歌っていたかもしれませんね」
「なんか聞き覚えがある気がするんですよ」
「ベルア族内では子供の寝かしつけに使ったりもするので、、、。ペイナさんが小さい頃に聞いたのかも知れません」
「そっか、、、。この歌って風神様について歌っているんですか」
「どうなんでしょう。確かに風神様が好むものなどについての歌詞もありますが、ベルア族ができてからかなりの年月が経ってできた曲なので、、、。あまり信憑性はないかと思います」
「風神様ってほんとにいるんですかねえ」
「さあ。ペリア姉さんは少し信じてたというか、利用していたというか、、、」
「手記にもそんな感じで書いてありました」
オベリアがペイナに請われた通り、ペリアの話をしてくれる。それがたまらなく嬉しかった。
二人してぼんやりと窓から入る光を見つめる。その時。
『バンッ!』
大きな音がして驚いてそちらを見ると、リーヤアイナが勢いよく戸を開いたところだった。
「思いついたわよ!全員集めなさい!」
リーヤアイナの後ろには呆れ顔のラゼン。彼らは今まで一緒にいたのだろうか。そう思うとペイナはなんとも言えない心境になった。
その後、ルドたちも部屋に呼ぶとリーヤアイナは声をあげる。
「叔母上からルドの命を守る方法を思いついた。いっそ認めてしまえばいいんだ」
「それは、、、どういう意味でしょうか」
ミーシェがリーヤアイナに尋ねた。
「叔母上としてはカイヤさえ殺せれば良い。ルドを殺さなくてはいけないのは国の問題だ」
「それは分かってますっ!」
珍しく、ミーシェが大きな声をあげた。
リーヤアイナは目を瞬かせると不敵な笑みを浮かべる。
「そう急かすな。順を追って話す」
「申し訳ありません、、、」
ミーシェはその言葉にハッとしたようでリーヤアイナに対して謝った。
「話を戻そう。叔母上がルドを殺すのは王家として体裁のためだ。つまり体裁さえ整えられれば良い。簡単だ。我が国には臣籍降下、という便利な物がある」
ルドがぱっと顔を上げた。
「つまり、俺が殿下の下に正式につけばいい、、、」
「そういう事だ。しかし庶子の臣籍降下には功績がいる。実質身分を上げるようなものだからな。つまり、」
そこで言葉を切ったリーヤアイナは悪い笑顔で言う。
「国の反逆者、カイヤを討ってしまえばいい」
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