十九、カイヤの罪

リアナーテ・デーナ・クリーグ。病弱さと目の色の特異性によって秘匿された姫君。そしてルドの母親。

カイヤが銀の目に固執していたと言うならば、目の色に異常があったリアナーテに興味を抱くのは有り得ることだろう。


「そんな、俺の、俺の母親の名前は、サリアで、俺に王家の血なんて、、、」


目を見開いてペリアの手記を覗き込むルドとミーシェの視線の先あるのはリアナーテとルドの文字。そして、サリアとミーシェの文字。


「俺と、ミーシェが異母兄弟だなんて、そんな、」


ペイナは自分の顔から血の気が引くのを感じた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ペリア母さんはこれを二人に教えたくなくて、それで、巻き込まないようにしてたのに。ごめんなさい」


ペリアが自分の行動からルドたちを遠ざけていた最大の理由。あくまでもペイナの予想でしかないが、この気持ち悪い家系図を見せないためではないだろうか。自分が母と思っていた人が母親ではなく、自分の幼なじみが兄弟だなんて。そんな事実は幼い彼らに聞かせたくなかったのではないだろうか。ペリアが捜査しだした時、ルドは十六歳。ミーシェは十三歳。オベリアに至ってはまだ十歳だったのだ。


「ごめんなさい。私のせいで、私のせいでペリア母さんがしていたこと、全部台無しだ」


ペイナはぎゅっと唇を噛む。泣くな。今この場で泣いていいのは傷つけられた人たち、つまりルドとミーシェだけだ。ペイナが泣いていい理由なんて欠けらも無い。

今にも泣きそうなペイナを慰めるようにラゼンが背中に触れた。その手がやけに優しくてペイナの目が熱くなる。


「、、、大丈夫だ。ペイナ。君は何も悪くない。悪いのはカイヤ、ただ一人だ」

ルドが覇気のない声で言った。

「質問を良いでしょうか」


部屋に入ってからずっと黙っていたオベリアが口を開く。


「いいだろう」


先程よりもどこか勢いのない声でリーヤアイナが許可した。


「殿下は先程王家の試金石と仰っていましたよね。それはどのようなものでしょうか。誤魔化すことはできませんか」


リーヤアイナはつけていた首飾りを卓において答える。

「これが王家の試金石だ。中央に嵌っている鈍色の鉱石があるだろう?この首飾りを王家の者が身につけると、」


リーヤアイナがそう言いながら首飾りを身につけると、鈍色だった鉱石が綺麗な青色に変化した。


「このようにただの石が宝石になる。試してみるといい」


リーヤアイナがペイナの首に首飾りをかけても鈍色の石は変化しなかったが、ルドにつけると鉱石が宝石に変化した。その様を見て一同は沈黙した。


「殿下は個人的な恨みのためにカイヤを殺したい。そして国のために俺を殺したい、、、」


ルドの言葉に空気が一層重苦しいものになった。


「殿下からルドの助命は嘆願出来ないのでしょうか」


ミーシェが縋るようにリーヤアイナを見る。


「私とて理解のある者を殺したい訳では無い。ベルア族は上手く使えば有用だ。しかし叔母上が私の嘆願を聞くかは、、、微妙なところだ」


一同は再び沈黙した。そんな中でルドが口を開く。


「きっと策が無いことはないだろう。もう一度練り直す。ミーシェついてこい。オベリアは殿下を客間にお連れしてくれ。では殿下。失礼致します」


そう言うとルドとミーシェが退室する。リーヤアイナはしばらく何かを考え込み、オベリアに何か話しかけてから二人揃って部屋を出て行った。

部屋にはペイナたち二人と沈黙が残された。

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