十八、ベルア族の過去

全員が名乗り、リーヤアイナを上座にして着席するとリーヤアイナが口を開いた。


「叔母上がベルア族を憎む理由とベルア族過激派を滅ぼす格好の理由について話そう」


全員が黙ってリーヤアイナを見る。


「単刀直入に言う。

「、、、っ!?」


ペイナは目を見開く。ルドたちも知らなかったようで驚いている。


「質問をよろしいでしょうか」


ミーシェが手を挙げてリーヤアイナを見る。


「許そう」

「王家の姫君を攫ったと言いますがそれならば何故ベルア族はまだ存在しているのでしょうか。普通ならその時点で王家への反逆と見なされ一族皆殺しでしょうに」


ミーシェの発言はもっともだ。クリーグ王国は絶対王政の国で、王家が法で王家が神である。そんな王家に手を出したら無事では済まない。


「そうだな。普通ならそうなる。しかし条件がいくつか重なってしまった。次は詳しく話そうではないか」


リーヤアイナは茶を一口飲むと口を開いた。


「先代の王、つまり叔母上の父に歳の離れた妹がいるのは知っていたか?」


一同は首を振る。その様子を見てリーヤアイナは目を細めた。


「知らなかっただろうな。大叔母上は存在が王家に秘匿されていたからだ。しかし先王は年の離れた妹が可愛くて可愛くて仕方がなかった。溺愛していた。先王の娘、つまり叔母上も年の近い大叔母のことが大好きで大層懐いていたらしい」


そこでリーヤアイナは言葉を切り、もう一口茶を飲んだ。


「王位が先王に引き継がれた時、大叔母上は先王に自分も王家のために何かしたいと訴えた。先王は可愛い妹の願いを叶えるため、大叔母上に巫女の称号を与えた。大叔母上は王都や各地の廟や斎場で祈りを捧げるようになった。王国の巫女の話なら少しは知っているんじゃないか?まあ、王女であることは隠されていたが」


その言葉にルド、ミーシェ、オベリアが頷く。大人たちの間では有名な話らしい。


「大叔母上がベルア族の里の近くに来たのは約四十年前。大叔母上が二十二歳の頃だ。大叔母上はひとつの街に長く滞在していた。拠点とする街から近隣の街へ行くからだ。ある晩。その日は何故かやけに眠たかったと当時の王兵が証言している。不寝番もいたが、その兵士も眠気に逆らえず寝てしまったらしい。誰もが寝静まっているうちに大叔母上は何者かに攫われた。王兵は必死に大叔母上を探したし、先王も力を尽くした」


そう言うとリーヤアイナは目を伏せる。


「しかし大叔母上は存在が秘匿された王族だ。大っぴらにはできない。触書を出そうにも、王立議会が邪魔をする。我が国は絶対王政と言えども、過ぎた王権の行使は不満を呼ぶ。結局大叔母上は見つからなかった。ベルア族の里の近くで、全員が不自然に眠くなり、大叔母上が攫われた。大叔母上を攫ったのはベルア族であると考えるのが自然だ。ベルア族なら薬や毒で兵士を眠らせるも簡単だろう。しかし秘匿された王族を探すには状況証拠だけじゃ足りない。状況証拠のみでは王兵を動かせない。先程も言ったが過ぎた王権の行使は不満を呼ぶ。何も出来ずに今に至る」

「何で、、、今更、、、」


ペイナがこぼした言葉にリーヤアイナが答える。


「今更。確かにそうだ。しかし今回ベルア族穏便派からの嘆願があり、ベルア族過激派と思われる人物が叔母上の客人、ペイナたちを攫った。ベルア族を潰すいい理由だ。王立議会に文句を言われてもベルア族に王家の血を引くものがいたと言えば良い」

「王家の血はそんなにも厄介なものなのですか?」


オベリアの言葉にリーヤアイナは頷く。


「王家の血は争いの元になる。ベルア族が王家の血を引く人間を王として擁立し、国家転覆を狙ったとでもなんとでも言えるだろう。王家の血を引いているのかは確かめられる試金石がある。それを使えば確実に王立議会を黙らせることが出来る。これが叔母上がベルア族を憎み、今回ベルア族過激派を滅亡させようとしている理由だ」


リーヤアイナが口を閉じると、ルドが手を挙げた。


「何だ?発言を許可する」

「ありがとうございます。二つほど質問があります。まず、その王家の血を引くものは見つかっているのでしょうか」

「いいや。見つかっていない」

「その者がベルア族穏便派の者だった場合どうするのでしょうか」

「叔母上のことだからなんとしてでも殺すか、王家で飼い殺しだろうな。それほどまでに王家の血は厄介だ」

「、、、。では次に、何故先王の妹君は秘匿されていたのでしょうか」

「私もよくわかっていないが、病弱だったからとも目の色に異常があったからとも色々と言われている」

「成程、、、。ありがとうございます」


ペイナは先程から嫌な予感がしてたまらなかった。その予感がどうか当たらないで欲しいと願いながら手をあげる。


「どうしたペイナ。発言を許そう」

「殿下、その、殿下の大叔母上の名前はもしかしてリアナーテ様でしょうか」

「その通りだ。どこでその名前を知ったのだ?」


ペイナはカタカタと震え始めた。何でこの嫌な予感が当たってしまったのだろうか。当たって欲しくなかった。リアナーテの名を知っているラゼンもこちらを見る。ラゼンもどこか青ざめて見える。


「、、、こちらに、書かれていました」


ペイナが差し出したのは母の手記の中の家系図。ペイナが指さしたのは、ルドの母親の名前。そこには確かにリアナーテと書かれていた。

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