間章五、それが意味することは
その日、ラゼンが部屋に戻るとペイナがぼんやりと椅子に座り込んでいた。
「ペイナ?大丈夫か?」
「ラゼン、、、」
ペイナはどこか泣きそうな顔をしていた。
「どうしたんだ?ルドさんになんか言われたのか?ああそうだ、茶でも飲もう」
今までペイナの泣き顔を見た事のなかったラゼンは慌てて部屋にあった茶器で温かい茶を作って差し出した。
「ほらペイナ。一回落ち着け。それで何があったのか話せるなら俺に言え」
「ふ、うぅ」
ペイナが唇を噛みながらボロボロと泣き出した。
「あ、ちょ、ああ、ほら唇噛みすぎるな。切れるだろ」
ラゼンはペイナを宥めつつ服の袖でペイナの涙を拭う。
しばらく泣いて落ち着いたペイナはぽつりぽつりとルドから聞いた話をラゼンに伝えてくれた。
「そ、それで私どうしたらいいかわかんなくて、」
ラゼンは頭を抱えたくなった。自分がふと言った言葉がペイナを苦しめる要因になっていたのが悔しい。
「俺は、俺はお前と違って血なまぐさい世界で生きていた。護衛業をしていれば人の死を見ることもたくさんある。サ・グラジュル様を襲おうとして死んだやつも、そいつが死ねば悲しむ人もいたんだろう」
「、、、」
ペイナは俯きながら話を聞いている。ラゼンの話に嫌悪感を抱くかもしれないが、それでもペイナが少しでも楽になれば良いと思い、話を続けた。
「だけど俺はそいつを殺して正解だったと思う。サ・グラジュル様は俺を助けてくれた恩人だ。命を比べるだなんて人としてどうかとは思うけど、、、。それでもサ・グラジュル様を救えたから、それが俺の正解だと思う。きっとカイヤって人を殺さないとルドさんもミーシェさんもこの先楽になれない。いつもカイヤが何をしているのか、新たに死者はいないのかって気になって平穏な日々なんて過ごせないんだと思う。ペイナとそいつは直接関係ないけど、ペイナの行動が、選択がきっとこれからの平穏を生み出すんだと思う」
「そっか」
「落ち着いた?」
「うん。あと一個気づいた」
「何?」
「私別にその人が可哀想だから殺したくないとか、少しは考えてたけどそれよりも、私はきっと自分の手を汚したくないとか、そういうことばっか考えてる。最低だよ」
ペイナは力無く笑う。
「ペイナ。それは不自然なことじゃないよ。誰だって自分が一番大事だ。最低なんかじゃない」
「ラゼン。ありがとう。私ちゃんと向き合って考える」
「どういたしまして」
「あと、、、。これ見て欲しいんだけど、、、」
「なにそれ?家系図?」
「ペリア母さんが手記の中に書いてたの。龍の家の書庫にあった家系図の写しらしいんだけど」
それ、が新たな問題になるなんて。二人とも分からなかった。ただ二人っきりの夜はゆっくりと穏やかに過ぎていった。
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