十六、龍の家の罪
ペイナが母の手記を読み終わった翌日。ペイナはルドと向き合って座っていた。ラゼンは今日もミーシェと稽古しているらしく、二人の姿は見えない。
「本当はミーシェさんにも聞いて欲しかったのですけど、、、。母の手記のことです」
ペイナはそうルドに切り出し、ペリアの行動について語った。ペリアは陽の自由のために独自に調査していたこと。ベルア族の近親婚のこと。クリグムの襲撃が二度あったこと。毒を売り始めた理由。ペリアが新しく集落を作ろうとしていたことなどを滔々と語った。ルドはペイナの話を真剣に聞き入っていた。
「ペイナ。教えてくれてありがとう。ペリア姉さんのことを、教えてくれて、、、」
ルドはそう言って顔を手で覆う。手の隙間からルドの嗚咽と涙が漏れた。
「何で、何で俺たちに何も言わなかったんだ、、、。もっと早く気づいてれば、、、」
ペイナの話を聞いたオベリアとルドは同じような反応をする。ペイナも母のやり方が正しかったのかは正直分からない。
きっとペリアは巻き込みたくなかった。まだまだ幼い彼らを自分の抱える問題に触れさせたくなかったのだろう。だけれど。ルドたちの気持ちはどうなるのだろう。大切な人が自分を置いてきぼりにして進んでしまった。そんな彼らの気持ちはどうなるのだろうか。
「ペイナ。俺も君に聞いて欲しい話がある」
「なんでしょう?」
「龍の家の、我が父カイヤが犯した罪の話だ」
「罪、、、ですか?」
「何から話せばいいだろう。まずは何故ベルア族において陽の家が大切なのかについて話そう。ベルア族の発祥は詳しくはよくわかっていない。しかし族内で言われているのが『ベルア族を作ったのは初代陽の家の者である』というものだ。信憑性は高い。陽の初代は我々が信仰する銀の風神様の子孫と言われている。これは眉唾物だな。ただ、ベルア族は陽の家が作った。そしてそれには銀の風神様が関わっている。とりあえずこれを覚えていてくれ」
「銀の風神様って存在するのでしょうか?」
「実際はともかく、民話なんかではそう言われている。まあ、聞き流してくれ。次に陽の家は元々ベルア族の族長だった、ということを覚えているか?」
「はい。以前ルドさんが言ってました」
「よし覚えるな。まあ当たり前だよ。族を作った者が族長。しかし陽は龍に族長を譲る。それを銀の風神様はお許しにならなかった。ベルア族の族長は族長の証というものを持つのだが、その証は陽の家の者しか触れられない。これは今でも銀の風神様は龍の家の族長を許していない証拠だ」
「族長の証?」
「今はカイヤが所持していて、俺も何かはよくわかっていないんだ。とにかく、我々龍の家は族長になる際に陽の家の手を借りなければならない。だからベルア族の族長決定には陽の家が介入する。それが気に食わなかったのがカイヤだ。カイヤは族長の決定も一族の決定も自分が、我が龍の家に担わせたかった。そして権力を欲するあまり彼は道を踏み外した。龍の家に銀の目の者を作り出そうとしたんだ。しかし陽の家も対策しない訳がない。陽の家の子女は龍の家の男に近づかない。婚姻なんてもってのほか。だからカイヤは違う血を入れた。今まで龍に入ったことの無い血ならば銀目を生み出せるかもしれないと、若い娘を何人も、、、」
そう言ってルドは何かを耐えるように黙り込む。ペイナはベルア族内で起こったことを想像して吐き気を覚えた。
「、、、結局銀目は産まれなかった。数多く生まれた金目の中で俺が嫡男に選ばれた。俺はカイヤが、あの男が大嫌いだ。俺と母、サリアは嫡男と正妻に選ばれたからよかったものの、選ばれなかった子供たちを、母たちを、俺は小さい頃から見てきた。彼らかあんな扱いを受けていいものかっ、、、。命を弄ぶあの男なんて死んでしまえばいいと心底思うよ」
ルドの目は憎しみに染まっていた。ペイナは何も言えなかった。
「それとペイナ。君が協力してくれるということだが、五日後に族内の会議がある。ペイナは参加してくれればいい。周りがペイナに注目しているうちに俺とミーシェがクーデターを起こす。危なくなったらラゼンと一緒に逃げるように」
「わかりました」
ルドの話を聞き終えたペイナは話の内容を反芻しながら唇をかんだ。ルドは父親を殺したいと言っていた。ペイナは人を殺したくないと答えた。だがどうだろう。話を聞き終えてペイナの考えは揺らぎ始めている。生かすことだけが救いではない。そんなラゼンの言葉も頭の中でこだました。
どうすればいいだろうか。何も言わないペイナに一言声をかけてルドが退室した。
その後ラゼンが部屋に帰ってくるまでペイナはその場から動けなかった。
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