十五、時を越えて

手記を読み終えたペイナはしばらくぼうっとしていた。故人の追憶をしていたため仕方の無いことかもしれない。手記を読み始めてからどれくらい経ったのだろう。窓から外を見ると太陽は真上にあった。辺りを見渡してみるとラゼンの姿が見えない。ミーシェと鍛錬でもしているのだろうか。

控えめなノックの音が聞こえた。ペイナは戸に近づいて戸を開ける。入ってきたのはオベリアだった。


「ペイナさん。昼ご飯です」

「ありがとうございます。、、、あのぅ、ラゼンはどこにいるんでしょうか?」

「彼なら今、ミーシェ様とルド様にしごかれていますよ」

「しばらく部屋に帰って来ないですかね?」

「もうしばらくかかると思います。何せミーシェ様がしごきがいがあると言ってましたから」

「、、、その、昼ご飯一緒に食べません?一人だと寂しいですし、その、」


ペイナからの突然の誘いにオベリアは驚いたようでいつもの無表情を崩して目を見開いている。考え込む素振りを見せるオベリアにペイナはもう一言付け加えた。


「その、オベリアさんに伝えたいことがあるんです。きっと母が伝えそびれたことなんですけど、、、」

オベリアは少し俯いてからペイナの目を見て言った。

「私の分の食事も持ってくるので少しお待ちください」



何から話せばいいだろうか。ペイナは昼ご飯を食べ始めてからそればかりを考えていた。

向かい側に座るオベリアと目が合った。綺麗な銀灰色だ。ペイナのものよりも深い色で朧月夜の月光に似ている。じっと目の色を見ているとオベリアが口を開いた。


「汚い色でしょう?」

「え?」

「私の目の色、純粋な銀じゃなくて汚いでしょう」

「そんなことないです」

「お世辞ならよしてくださいね。私の目はベルア族内で混ざりものって呼ばれてるんです。純粋な銀じゃなくて気味悪いですし」

「そんなこと思ってませんよ」


何故か必死になって自分の目は汚いのだというオベリアにペイナは微笑んで言った。ペイナにだって銀の目の自分が異質で気持ち悪いと思っていた時期は長らくあったのだ。そんな気持ちは村の親友、メイリュの「ペイナの目、星蒼玉そっくりで綺麗!」と言われた日から無くなったのだが。


「オベリアさんの目は、、、私のよりも深くて、朧月の月光みたいでとっても綺麗です」


ペイナはあの日のメイリュのように思ったままのことを告げる。オベリアは一瞬目を見開き。それから微笑んだ。今度はペイナが目を見開いた。オベリアの笑顔を見るのが初めてだったからだ。


「本当にあなたは。あなたはペリア様の子供なんですね。ペリア様も私の目の色を綺麗だって褒めてくれました」


そう言ったオベリアは穏やかな顔をしていた。


「あの、母はオベリアさんを見捨てて里に出たわけじゃないんです」


ペイナはぽつりぽつりと手記に書いてあったことをオベリアに伝えた。オベリアの薬学の才能を認めていたこと。オベリアのために里から出ずに当主になったこと。里から出たあとも新たな集落を作れたらオベリアを迎えに行こうとしていたこと。そしてオベリアを大切に思っていたこと、、、。

話を聞いていたオベリアは終始とても穏やかだった。


「わかっているんですよ本当は。ペリア様が、、、ペリア姉さんが私たちの事を嫌いになって、見捨てて里を出たんじゃないって。でも私が当主になってから誰も私の辛さをわかってくれなかった。混ざりもので紛い物と呼ばれる辛さなんて、誰も。姉さんのことを嫌いって言うのはただの八つ当たりなんです。なんで里を出たの?なんで、なんで私たちに何も言ってくれなかったの?相談してくれなかったの?っていう」


オベリアは泣いていた。銀灰色の目からハラハラと美しい涙を流していた。


「でも、姉さんを責めるのはもうやめにします。姉さんは里を出ても私たちのことを想っていたってわかりましたから」


オベリアはペイナの目を見つめ、手を取って言った。


「この里において、私は絶対あなたを守ります。あなたの絶対的な味方でいます。陽の当主としても、あなたの親戚としてもです。、、、私とて姉さんを殺したあいつらを許していませんから」

「オベリアさん、、、。ありがとうございます」


ペイナはオベリアの手を握り返した。


「オベリアさん、母のことを教えてくれませんか?たくさん」

「ええ。もちろん」


ペイナとオベリアはお互いに微笑みあった。

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