十一、本当のこと
「協力してもらうのに名乗らないのもいけないな。俺はベルア族龍の家が長男・ルド。こいつは俺の補佐でベルア族影の家が長女・ミーシェだ。よろしくな」
ペイナは唇を噛む。嫌な予想は当たっていてペイナたち二人は過激派に攫われてしまったらしい。
「私は、何をすればいいんですか?要求通りに動くのでラゼンには手を出さないでください。ラゼンは何も関係ないんです」
ペイナは目覚めた時のラゼンのボロボロ具合を思い出しながら言った。おそらくだが、過激派はペイナに手を出せない。ペイナが大事な駒だからだ。しかしラゼンはそうもいかない。そう考えての発言だった。
じっとルドを見つめていると、ルドとミーシェがペイナに跪いた。
「君に、いやベルア族陽の家が当主様に頼みたいことはひとつです」
「どうか族長、諸悪の根源で我が民族の腫瘍たる男、カイヤを排するのにお力をお貸しください」
先程の態度とまるで違う態度と自分より若い娘に膝をつく二人にペイナは驚いて目を見開いた。
「あ、あなたたちは過激派では無いのですか?」
「ええ。あの男、、、カイヤがペリア様を殺したその時から過激派ではなくなりました。ベルア族における陽の家の価値を見誤る男など身内にしたくない」
「陽の家の価値、、、?」
「元々、族長を務めるのは陽の家の当主でした。しかしある陽の家の当主がベルア族の罪、、、毒を用いた殺人に心を痛め、贖罪の道へ進みました。それから陽の家は代々神職につき、現在は神の家と呼ばれています」
ペイナが漏らした疑問にミーシェが丁寧に答えた。
「だから本来我々龍の家は陽の家の配下なのです。だと言うのに陽の当主を殺すなどあってはならない」
ルドは呻くように言う。
「わ、私は、」
ペイナが口を開くと二人ともこちらを縋るように見つめた。
「王城で陛下がベルア族の過激派を皆殺しにすると聞いてすごく嫌でした。あなたたちの策に乗れば死ぬ人は少なくて済みますか?」
「ええ。あなたが王城にいるよりかは遥かに」
「なら、協力します」
ペイナの言葉に二人は安堵したようだった。
「ありがとうございます。陽の当主様」
「、、、あの、年上の方に敬語を使われるのは慣れないので、、、最初のような話し方にしてくださいませんか?あと、当主様という呼び方も、、、どうにかなりませんか?」
ペイナがおずおずとルドに尋ねると、ルドは破顔した。
「俺はこっちの方が話しやすいから大歓迎だ。でもミーシェは誰にでも敬語だから慣れてくれ。よろしくな、ペイナ」
「はい。よろしくお願いします」
ふたりが部屋を出る間際にペイナはルドに声をかけた。
「私、人は死なない方がいいです。カイヤさんを殺す以外になにか方法はないのですか」
それまでの和気あいあいとした雰囲気が一気に重苦しいものになる。
「、、、ない。こればかりは承知してくれ」
そういうとルドとミーシェは部屋から出ていった。
「生かすばっかが救いで最善じゃあないぞ。ペイナ」
ラゼンが寝ているはずの寝台から声が聞こえた。そちらに目を向けるとラゼンが起き上がり、こちらを見ていた。
「ラゼン!?目が覚めたの?」
「そんな長く気絶する訳ないだろ。あの二人、、、ルドとミーシェって言ったか?が部屋に入ってきた辺りから起きてたぞ」
「起きてたならそう言ってよ!すっごく心配したんだから」
「悪い悪い。でも俺が起きてたらあの二人、込み入った話ししなかったと思うぜ?」
「確かに。、、、さっき言ってた生かすばかりが救いで最善じゃない、ってどういうこと?」
「そのまんまの意味さ。殺すことがそいつにとっての救いだったりする。殺しが正解のこともな」
「でも」
「人の生死に関しては俺の方が何倍も理解してるさ」
そう言ったラゼンの目は憂いを帯びていて。ラゼンとペイナでは生きていた環境がまるで違うのだと、痛感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます