十、ベルア族の里へ
ペイナが目を覚ますと知らない場所にいた。王城よりも硬い寝具にやはり見覚えのない風景。いささか既視感を覚えつつ周りを見るとボロボロになって倒れているラゼンが目に入った。
「ラゼン!?」
「うんん、、、」
ラゼンは少し唸るとまた眠ってしまった。どうしよう。ペイナはベルア族ではあるがベルア族として生きていないので薬学の知識はゼロに等しく、一般家庭で覚える程度の知識しかない。それに加えペイナが目覚めた部屋にも何か使えそうなものは無い。
「これって、もしかして割とまずい、、、?」
ペイナがボソリとつぶやくと部屋に誰か入ってきた。
「おはようございます。陽のお嬢様とその騎士くん」
だるそうな感じのする三十代半ば程の金目の女性だ。ペイナが身を固くすると心外と言うように片眉をあげた。
「警戒しないでくださいよ。我々はあなたがたに危害を加える気はないですよ」
ペイナが無言でラゼンを見る。殴られたのかアザだらけだ。切り傷もいくつかある。
「その坊やは色々と抵抗してきましたので。しかし、いい腕してますね。王兵よりも強いですよ彼。ついつい可愛がってしまいました」
そのセリフにますますペイナは警戒を強くする。全く信用出来ない。
「、、、もう。確かにやりすぎましたがちゃんとしたベルア族を連れてきたので安心してください」
そう言って女性は後ろにいた女性を前にやる。
「ベルア族陽の家が分家、オベリアちゃんです!」
二十代後半程の、銀の目の女性だった。
「陽の、家の人、、、」
「彼女は直系以外で唯一の銀目、、、というより銀灰色ですね。めっちゃ貴重な存在ですよ」
「、、、初めまして。オベリアと申します」
「初めまして。ペイナです。こっちはラゼン。あの、ラゼンの傷を診てあげてください」
「ええ。そのために私は来ましたから」
「じゃ、私は戻りますねー」
軽い口調で言うと金目の女性は部屋を出ていった。
オベリアは終始冷静で無表情だった。しかし腕は確かなようでテキパキとラゼンの治療をしてくれる。ラゼンの状態もだいぶ良くなった。
「あの、オベリアさんは陽の家の方なんですよね?」
ペイナは治療に使った道具を片付けるオベリアに話しかけた。
「はい。分家ですが」
「母のこと知ってますか?」
「ええ。ペリア様は私の従姉妹ですから」
「い、従姉妹?」
思っていたよりも近い血縁関係にペイナは驚いた。分家、と聞いていたのでもっと遠い親戚かと思っていたのだ。
「母はどんな人でしたか?」
ずっと気になっていたことを聞いた。ペイナは母について詳しく知らない。他人から聞いた事、「陽の家の自由のために戦った」、「父と駆け落ちした」などという話しか知らないのだ。そこから「正義感の強い人?」だとか「情熱的な人?」だとかしか推測できない。それはペイナからしてみても寂しいことだ。実の親のことを何も知らないなんて。
「そうですね」
ペイナにペリアについて聞かれたオベリアは黙り込んだ。そしてしばらく考えてからポツリとこぼす。
「酷い方でしたよ。自分勝手で強引で傲慢な人でした。私はあの方が嫌いです。憎んでさえいます」
「え、、、」
ペイナは思わずオベリアの目を見る。暗くて、それでいて冷たい目をしていた。
「ああ、ショックを受けないで。あくまでも私からしてみれば、です。他の方にとってペリア様は尊き反抗者ですから。それに私はあなたのことは嫌いじゃありません。里に来ていただいて感謝すらしてますから」
そう言い残してオベリアはペイナとラゼンがいる部屋から出ていった。
ペイナは考えがまとまらない。今まで聞いてきた母親像がガラガラと音をたてて壊れていくような気がした。母は、ペリアは一体オベリアに何をしてしまったというのか。ペイナは自分が寝ていた寝台に近づき座り込んだ。何も考えたくなかったのだ。
それからどのくらい時間が経っただろう。先程、オベリアを連れてきた女性ともう一人。三十代後半程の男性が入ってきた。見事な金目の男性だ。
ペイナは未だに眠っているラゼンを庇うように立った。
「だからそんなに警戒しないでくださいって」
女性が困ったように言う。
「お前が必要以上にいたぶるからだろう」
男性が呆れたように言った。
「まあ。それはともかく君たちは大事な客人だ。なんせこっちの策に乗ってもらうからな。それまでは元気でいてくれ」
男性は鷹揚に言う。
逃げようにもここがどこか分からないし、女性の方はラゼンよりはるかに強い。どうやらペイナはこの男たちに協力しなくてはいけないらしい。
そして。ベルアの五つの一族のうち、金目、銀目は直系のみ。時々オベリアのような例外がいるが、おそらく珍しく、ほとんどいないはずだ。そのうえ陽は銀目、瑞と炎の直系は王城にいる。つまり、目の前の男女は龍か影の直系。過激派の者だ。ペイナは自分が最悪な状態に巻き込まれているのだと改めて理解した。
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