六、預言使御一行

ペイナが王城で暮らし始めてから数日。王城には新たな客がやってきた。希代の預言使、サ・グラジュルである。

預言使とは、不変の未来を、遠い過去を、遥か遠い場所をも見通す者だ。預言使が見える範囲は限りがあるのが通常だが、サ・グラジュルは全てを見通す。何を聞いても正解を答え、見えた未来が外れたことがない。それ故に希代の預言使と呼ばれるのだ。

サ・グラジュルは権力を好まない。いつでもフラフラと自分の行きたい場所へ数人の護衛と旅をするのが常だ。しかし、グラジュルがクリーグの王城に来たのには理由があるらしかった。


「久しぶりだな。エヴシーテ陛下よ」

「ええ。お久しぶりですね、グラジュル」

「いやぁ、あんなにも小さかった娘っ子が立派な王様になった。時の流れは早いものよ」


一見エヴシーテよりも若く見えるグラジュルだが、彼は不老長寿。既に数百年生き続けているのだ。そのため、エヴシーテでも頭が上がらない。


「それで、、、今回はどのような用事でしょう?」

「数人、会いたい者、会わせたい者がいるのだ。この出会いが運命の要である」

「会いたい者、、、。会いたい方に関しては呼び出しますか?」

「いいや。自然に任せるのがよろしい。全ては決まっている事だからな」

「了解しました」

「それともうひとつ。ベルア族に会いに来た」

「、、、ベルア族と預言使は仲が悪いのでは?」

「ベルア族と仲が悪いのはクリグムの連中だけさ。神の家の末裔がいるだろう?是非とも会ってみたい」

「あなたの会いたい人は彼女なのですか?」

「いいや。ただの興味だ」

「呼んでおきますね」



サ・グラジュルが王城に来る、と聞くとベルア族たちは慌ててあてがわれている部屋にこもった。どうやらベルア族と預言使は仲が悪いらしい。


「ミュリラ、どうしてベルア族と預言使は仲が悪いの?」


ペイナはソワソワしながら薬草を乾かしているミュリラに尋ねた。

「仲が悪いんじゃないの」

「じゃあ何なの?」

「僕達ベルア族は預言使を恐れてるんだ」


部屋の隅で本を読んでいたボルックがペイナの疑問に答える。だがその言葉と裏腹に、ボルックは恐れている感じはない。ミュリラの方が重症だ。


「恐れてる?どうして?」

「預言使たちはベルア族を忌み嫌っている。僕らが運命を変える不穏分子だからだ」

「運命を、変える?」

「ベルア族は毒と薬の一族。死ぬはずの人を生かすし、生きるはずの人を殺す。預言使たちにとってあまり良い存在じゃない」

「それで、なんで恐れるの?」

「もう八十年前のことになるんだけど、預言使の一族、、、クリグム族がベルア族を消そうとしたんだ」

「消そうと、、、?」

「そう。預言使は権力者の信頼が厚い。僕達ベルア族と違ってね。預言使の進言に権力者はすぐ納得する。だからある国の軍隊が里を襲った」

「え、嘘でしょう?結局どうなったの、それ」

「里の十分の一はやられたらしい。それ以降ベルア族は預言使を恐れるようになって、里を奥深い森の中に移した」

「だからベルア族は預言使を恐れるの。気をつけてね、ペイナ」


そうミュリラが締めくくり、この会話は終わり、違う話題に移っていった。



しかし、夕食後のことだ。エヴシーテがペイナを呼び出した。エヴシーテはペイナを保護しているが話すことは特にない。そのためペイナが縮こまりつつ謁見すると、エヴシーテが一言言った。


「ペイナ。サ・グラジュルがお前との面会を希望している。会って来なさい」

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