五、金目の少年


王城は広い。ペイナは周りの人にミュリラを見なかったかと聞いて回っていたが見つかりそうにもない。それどころかペイナ自信が迷子になりそうだ。何本目かの曲がり角を曲がった時、少年にぶつかりそうになった。


「ごめんなさい、あの、金目の女の子を見ていない?十四歳で私より少し背丈が低い子なんだけ、ど、、、」


ペイナは目の前の少年をまじまじと見つめた。少年が金色の目をしていたからだ。


「君、陽の家の人?」

「ええ。陽の家のペイナよ。あなたは?」

「僕はボルック。瑞の家が長男、ボルックだ。君が探してるのはミュリラかい?」

「ええ、そうよ。さっき走って部屋を出てしまって、、、」


ペイナは一通りの事情を「ベルア族を滅ぼす」という内容を伏せつつ話した。


「そっか、ベルア族を滅ぼす話、ミュリラは聞いていなかったから」

「あなたは聞いていたの?」

「曲がりなりにも次期当主だからね」


ボルックは元からこの計画について知っていたらしかった。


「それで、ミュリラはどこかわかる?」

「うん。だいたい」


そう言ってボルックはペイナを小さな庭へ案内した。薬草の香りがするここはベルア族のために作られた庭園だという。

その庭の隅でミュリラは膝を抱えて座っていた。


「ミュリラっ」


ペイナはミュリラに駆け寄る。

顔を上げたミュリラは青白い顔でガタガタと震えながら泣いていた。


「ペ、ペイナ。ねぇ、さっきの、ほ、ほんとかな?みんな殺しちゃうって。ねぇやだよ私。そんなの嫌だよ」

「大丈夫、大丈夫だよ。ミュリラ」


ペイナはミュリラを抱きしめて言った。実際にペイナがこの決定を覆すことは不可能である。しかしこういうものは、心の傷はこうしないと治らないものだ。


「で、でもね、私知ってる。私の母さんはあいつらに殺されたの。ボルックの叔父さんも。だ、だから、お父さんたちの気持ちもわ、わかるの」


ミュリラとボルックは直系だ。つまり、レビリオの弟とユージオの妻が過激派に殺されている、、、。


「だけど、あの人たちを殺していい理由になんないよ。父さんも、レビリオさんも、お、おかしいよ」


ペイナは嗚咽を漏らすメイリュの背中を撫でた。


「父さんたちの言うことを聞くのがメイリュのためだって思ってたけど。そうじゃないみたいだな」


黙っていたボルックが声を上げる。


「ボルック、、、?」

「ミュリラ。ごめん。僕は全部知ってた。ベルア族を滅ぼす計画とか。全部。でも、黙っておいてミュリラに汚い物とか見せないのがミュリラの幸せだと思ってた。だけどミュリラはそんなの望んでないよね」


ボルックは自嘲気味に言った。


「ペイナさん。僕らが過激派を救うとなると、あなたの存在が切り札になる。あなたは陽の直系。ベルア族の中で特別な意味を持っている。どうか、僕とミュリラのために力を貸してください」


ボルックはペイナに頭を下げて頼んだ。ペイナはその手をとる。


「もちろんよ。私も過激派を皆殺しには疑問があるもの」


こうして、三人の小さな同盟が出来上がる。ミュリラのための気休めのものかもしれない。だけれどペイナは過激派の者達に死んで欲しいわけではないのだ。

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