四、ベルア族のあるべき姿

「元々ベルア族は薬学の一族でありました。毒学はあくまでも薬のおまけです。小さな穏やかな里で自給自足をし、足りないものは薬を麓の村で売って手に入れる。こんなに忌み嫌われる一族ではなかったのです」


ペイナはレビリオのやたら芝居かかった話に頷く。


「それが変わったのは何代前だったでしょう。我々の先祖は毒に手を出してしまった。その方が儲かると気づいてしまったのです。そうしてベルア族は莫大な富を得ました」


それは今のベルア族と同じだ。ペイナはまたもや頷く。


「しかし耐えきれないものがいました。五代前の族長と当時の陽の家の当主です。彼らは人を殺してまで儲かりたくなかった。その意見に賛同したのは私たち瑞の家、そして炎の家です。そうです。影は反対しました。これが亀裂の始まりです。

その後、五代前の族長と陽の当主は謎の死を遂げます。皆が影を疑いました。しかし証拠がない。影は知の家です。策略に長け、我々も知りえない毒の知識もあります。族長を殺すのは容易でしょう。族長の跡を継いだのはなったのは影が後見人に着いている者です。そこから影と龍は癒着してしまい、明らかな派閥が出来ました。我々穏便派と龍たちの過激派です」


ペイナは頭の中を整理する。まず、影の家のみが過激派だったが、当主暗殺によって、龍の家も過激派になった、ということだろう。


「そこで過激派にとって邪魔になったのは陽の家でした。陽は穏便派の筆頭でしたから。そこで龍と影は陽を迫害します。陽のみが金目ではなく銀目なのを理由にです。その際に多くの陽の家の者が追放や死に追い込まれました。我々ベルア族は陽のみが扱える銀の風に幾度も助けられているというのに、、、。

それに反抗したのは陽の先代当主、ペイナさん、あなたの母君です。あなたの母君、、、ペリア様は陽の家の自由のために龍と影に歯向かい、狙われ、殺されました。その際に父君も亡くなったと聞いています」


今まで全く知らなかった、両親の死に方を唐突に知らされてペイナは愕然とした。しかしレビリオはそんなペイナの様子に目もくれず、話続ける。


「陽の当主がいなくなったのでここぞとばかりに龍と影は意見を通そうとしましたが、里にはまだ陽の傍系の者が残っていました。その方が陽の当主代理です。ここで問題になったのがベルア族の掟です。当主の会議、今回の議題は瑞が提示した「暗殺業から手を引く」ですが、賛成も反対も五家の過半数を取らなくてはいけません。そして、会議の決定権は五家の直系子孫の当主のみが持ちます。

つまり、陽の意見が保留になっているのです。そのためベルア族は二つに別れたまま、均衡を保っています。皆々様、長話失礼致しました」


レビリオが語った話は複雑ですぐには上手く飲み込めなかった。しばらくしてからペイナは疑問を投げかける。


「あの、なぜ、皆さんは王城にいるのでしょう?」

「それは私の采配だ」


エヴシーテ陛下が答えた。


「私は使える者が好きだ。使えなさそうなのは嫌いだ。ベルア族は使えそうだったから王城に呼んだ、それだけだ」

「我々穏便派当主は過激派に命を狙われる日々を送っていましたので、渡りに船とばかりに陛下のご提案に乗ったのです。ですから今王城にいるベルア族は瑞と炎の直系の者のみです」


レビリオが補足で説明した。


「それで、私は当主会議で穏便派に付くと言えばいいのでしょうか?」

「それは、、、」

「レビリオ、そなたからは言い難いであろう。私が言う」

「ペイナ、そなたにはベルア族を滅ぼす手伝いをしてもらいたい。まあ、結局滅ぼすのはこの当主二人だから過激派に捕まらないようにここにいればよろしい」

「滅ぼすのですか、、、?一民族を?」

「命乞いをして私の配下に下るのならば助けよう。しかし過激派はいると面倒だし、国の不穏分子になりかねない。根絶やしにする」

「よいのですか、そんな、あの」

「ペイナさん、言いたいことは分かりますが、こちら側とて何人も殺されているのです。あなたのご両親も」

「でも、」

「ペイナ。これは勅命だ。私が命じたものだ」

「ベルア族をあるべき姿に戻すために必要なのです」


エヴシーテ陛下とレビリオの声がどこか遠くで聞こえる。何を言われてもペイナは納得出来なそうだった。


『ガタン』


その時、椅子が倒れる音がした。真っ青な顔をして立っていたのはミュリラだった。

ミュリラは何か言おうとして口を開けたが、言葉が出てこないようで、口を何度かパクパクと動かし、走って部屋から出ていった。


「おや。幼子には刺激の強い話であったか」


エヴシーテ陛下は悪びれもせず言った。慈悲深く、冷酷な王者の目をしていた。

おかしい。なぜみんなショックを受けた少女を追いかけないのか。抱きしめて大丈夫だよ、と言わないのか。ペイナは周りの大人が人ではない違う生き物に見えて胸がムカムカした。


「、、、失礼します」


ペイナは走って部屋を出た。もちろん、ミュリラを探すために。

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2024年10月25日 20:00
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銀色の旋風 旅籠はな @hatago_hana

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