三、王城のベルア族
「ペイナ」
誰かに頭を撫でられている。優しくて、暖かくて、無性に泣きたくなる。目の前の誰かに縋りつく。これは誰だろう。養い親では無い、知らない誰か。柔らかな薬草と太陽の香りの、、、。
「、、、っ」
ペイナはそこで目を覚ました。見覚えのない天井、いつものものより柔らかい寝具。全く知らない場所だった。
「どこ、ここ、、、。あ、お母さんはっ」
ペイナが立ち上がろうとした時、
「あ、起きた!」
ちょうど部屋に入ってきた見知らぬ少女が声を上げた。ペイナより少し年下くらいの少女は美しい金色の目をしている。
「ベルア族、、、?」
「あなたもでしょう?陽の家の直系だもの」
「そんなの、知らない」
「そうよね、知らされてないもの。さ、これを飲んで、薬湯よ」
少女はこちらに湯呑みを差し出した。
「ねえ、ここはどこ?村は、お母さんはどうなったの?」
「覚えてないの?」
「何も、見てないし覚えてないわ」
「安心して。あなたの家族も村も無事よ。ほとんどあなたが助けたの」
「私、なにもしてない」
「それについては後で説明されると思うよ。それとここは王都王城、翡翠殿よ」
「王都王城、翡翠殿、、、」
王都王城翡翠殿。国の主、女王陛下のお膝元である。
「なんでそんなところに私が?」
「それも後で説明してあげる。そうだ、あなた、名前は?」
「ペイナよ。あなたは?」
「私はミュリラ。ベルア族炎の家が三女のミュリラよ」
ペイナが薬湯を飲み終わると、ミュリラが言った。
「この後、陛下とこちら側の代表が色々説明してくれると思うけど、、、予備知識を教えておくね」
「わかった。お願い」
「ベルア族は金目か銀目って言われるけど、それは間違いよ。金銀の目をしてるのは例外もいるけど基本は五つの家の直系の者だけ。序列の上から
「神との会話?私が?」
「正確には神の力を借りられるんですって」
昨日の男たちも、ミュリラもペイナのことを「陽の家の直系」と呼んだ。それはペイナが金ではなく、銀の目をしているからだろう。
「銀目ってベルア族の中でも珍しいの?」
「今はペイナ以外ほぼいないわ」
「私の身柄を確保することでなにか利益になるの?」
「とっても。この理由の前に他の二家について説明するわ。四つ目、盾の家、瑞。族長の護衛をする一族。五つ目、矛の家、炎。ベルア族が暮らす里への侵入者と戦う一族よ」
「ミュリラはえーと、」
「矛の家、炎。私たちは部外者から里を守るためにいるんだけど、ベルア族は今二つに分かれているの」
「どうして?」
「今後の方針についてよ。瑞と炎は穏便派。龍と影は過激派。陽がどちらの派閥に入るかによって今後の方針が決まるの。だから直系のペイナが狙われた。直系当主じゃないと会議で決定権がないから」
「長がいる方に従わないの?」
「私たちの言う穏便っていうのは殺しをしないってことで、えーっと、なんかそう簡単に決められないらしいの。この辺は私もよく分からないから、後で説明されると思う」
「そっか。ありがとう」
「いえいえ。そういえばペイナは何歳?私は十四よ!あ、好きな食べ物は?それから、、、」
ペイナは突然始まったミュリラの質問攻めに目を白黒させながら会話を楽しんだのだった。
王都王城、翡翠殿謁見の間。ペイナは現国王である、エヴシーテ・デーナ・クリーグ陛下に謁見していた。
謁見の間には六人の人がいる。ペイナとミュリラ。ベルア族の男が二人。エヴシーテ陛下、その後継であるリーヤアイナ殿下だ。
エヴシーテ陛下は五十代くらいの女性でつり目のきつい顔つきをしている。リーヤアイナ殿下は十代後半ほどで陛下ほどでは無いがやはりきつい顔つきをしていた。
ベルア族の男は二人とも金目だ。がっしりした男と線の細い男で二人とも四十代前半ほどだろうか。当たり前だが陽の者ではなかった。
「皆よく来たな。そう畏まらずに楽にして良い。そこに座れ」
陛下の声を聞いてから皆席に着いた。
「久しいな。レビリオ、ユージオ。ミュリラ。そしてお前は会うのが初めてだなペイナ。私はエヴシーテ。お主の身に起きたことを説明しよう、と言ってもベルア族の内情はわたしにはわからん。レビリオ、ユージオ、説明してくれ」
「かしこまりました」
二人の男のうち、がっしりした方の男が答える。
「はじめましてペイナさん。私はベルア族瑞の家が当主、レビリオ、こちらは炎の家が当主、ユージオです。メイリュからベルア族のおおまかな説明は聞いたでしょうか」
「はい、お伺いしました」
「それでは、メイリュが説明出来なかった辺りから説明致します」
「お願いします」
「それでは、昔話を致しましょう」
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