一、ペイナ
ペイナはパチリと目を開いた。何か夢を見ていた気がする。内容は全く思い出せないが。しかし根が楽天家のペイナは特に気にすることもなく起き上がった。
「ペイナー。起きてる?朝ごはんできたわよー」
階下から養母のルグナの声が聞こえた。
「起きてるよー。今行くー」
ペイナはもらい子だ。本当の母親はルグナの友人なのだが、若くして亡くなってしまったのだ。そのためペイナは物心ついた頃からルグナ一家に育てられている。
「おはよう。ペイナ。よく眠れた?」
朝の身支度を終え、階段を下ると居間にいた養父のポイッサムに声をかけられた。
「おはよう、お父さん。そりゃあもうぐっすり眠れたよ。お兄ちゃんは?」
「あいつはもう朝ごはん食べているよ。ペイナも早く行かないと取られるぞー」
それはいけない。ペイナの義兄であるリュークはとても食いしん坊なのだ。
慌てて食卓に着くとリュークはモゴモゴと口を動かしながら話しかけてきた。
「おはよペイナ。これうまいぞ」
「おはよう。お兄ちゃん。珍しく取っておいてくれたんだ」
「珍しいとは失敬な」
ペイナは一見幸せな普通の少女に見える。しかし彼女は普通じゃなかった。ペイナは“穢れた民族“、ベルア族の血を受け継いでいるのだから。
ベルア族についての話をしよう。ベルア族は薬と毒に秀でており、大変高度な薬学と毒学の知識を持つ。そして金さえあれば救いもするし、殺しもする。これが穢れた民族と呼ばれる所以である。例えば。ある貴族の命を奪え、と依頼されるとベルア族は毒を作り、その貴族に飲ませる。しかしその後、暗殺依頼の倍払うから助けてくれ、と頼まれればベルア族は解毒剤を渡す。そうしてベルア族は巨万の富を築いたのだ。しかし人の生死を操るベルア族は忌み嫌われており、迫害される。また、人の生死を弄んだ報いか、彼らは酷く短命だ。
ベルア族の者は金色か銀色の目を持つとされる。そのためベルア族である無いに関わらず金銀の目の者は迫害されがちなのだ。ペイナの目は銀色。しかしペイナはこの村で迫害されたことはなかった。それはひとえに家族のおかげだ。ポイッサムは人望が厚く、ルグナは肝っ玉母さんとして尊敬されている。そしてリュークはガキ大将として近所の子供をまとめていた。家族のみんなにペイナは守られたのだ。
「ペイナー!学校行こー」
家の外から声が聞こえる。ペイナの友人のメイリュだ。ペイナは慌てて朝食を詰め込み、外へ出た。
「メイリュ、おはよう」
ペイナは目の前にいる美少女に声をかける。
「おはよー。ペイナ」
メイリュはペイナと同い歳の十七歳。村一番の美少女として名高い少女だ。
「ペイナ、いってらっしゃい」
「いってきます。お兄ちゃん」
ペイナがリュークと話していると、メイリュがうっとりとリュークを見ていた。
「あ、メイリュちゃん、ペイナよろしくね」
「は、はいっ!お任せ下さい、リュークさんっ」
メイリュはリュークのことが好きだ。一目惚れらしい。ペイナとしては冴えない容姿のリュークに美少女のメイリュが一目惚れするのは謎だが、本人が楽しそうだから良いとする。
学校でもペイナは差別されない。これは大変奇跡的なものでもある。銀色の目の少女が普通に暮らしている。これがどんなに異常なことか、ペイナはわかっていなかった。
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