左手と右手のタイトルマッチ

 ただいまよりぃぃ、第1回ぃぃ、主の身体タイトルマッチ、決勝戦を行いますっ。


 赤コーナーぁぁ、左半身所属ぅ、左手ぇぇぇぇっ!!


 さぁ、左手選手が入場します。

 物心ついた頃、利き手を奪われてしまった左手。以来数十年に渡って右手のサブ的立ち位置に甘んじてきました。長年の屈辱を晴らせるかどうか、注目の一戦です。


 続きましてぇぇ、青コーナーぁぁ、右半身所属ぅ、右手ぇぇぇぇっ!!


 来ました、右手です。

 主の絶対的信用を勝ち取った不動のエース、不動の利き手。お箸、鉛筆、ボール投げからナイフさばきまで、数々の経験を積んできた、まさにオールラウンダーです。


 本日の解説には生まれて間もなく主の身体への役割を失った、おへそさんにお越しいただいています。おへそさん、よろしくお願い致します。


 お願いします。言うても胎内での大事な時期をささえてきた経験がありますんで、自分なりの視点で解説できたら、思います。


 ありがとうございます。主は出生の直前に関西から関東へと転居しています。その影響で、主の身体部位の中でおへそさんだけが、関西弁になっております。あらかじめご了承ください。


 なんでご了承取んねや。


 さあ、いよいよゴングです。


 ラーーーーーウンド、ワーーーーーン、ファイッ!!


 はじまりました、世紀の一戦。

 今日で主の身体の一番えらいやつが決まります。下馬評では右手圧勝の声が多く集まりましたが、勝負は時の運。左手、番狂わせなるか。


 おーっと、左手、いきなりけしかけた。

 これは……じゃんけん、ですかね?


 そうですねぇ。まぁじゃんけんやったら利き手も非利き手も関係あらへんし。主は右手で出すフリして左手で出す、みたいな姑息なワザもよう使ってはったから、左手もワンチャンある思ったんちゃいますかね。


 なるほど。さあ熾烈しれつなじゃんけん争い、両者一歩もゆずりません。

 すでにあいこは百回を超えました。

 このまま同じ手を出し続けるのか。はたして……。


 おおっと、グーを出すように見えた右手、そのまま左手に殴りかかりました。


 左手もパーのまま、うまく受け止めはった。ミット打ちみたいやね。


 左手も負けていません。このまま直接対決になるのか。

 おや、左手が打撃戦を嫌って、右手の指を掴みました。おへそさん、これは……?


 ストレッチやなぁ。

 主は腱鞘炎で手首を痛めとるから、右手の指を逆方向に曲げるように伸ばしたら、めちゃ痛いはずやわ。


 なるほど、左手、うまく右手の弱点を攻めて主導権を握ったか。

 おっとー? これはいけません。右手の中指立てです。

 不適切な表現は指導の対象となります。


 あっはっはっ、左手も親指を下に向けて「地獄に堕ちろ」やっとるわ。


 両者、審判から指導が入ります。

 ……おおおおおっ!?

 ジャッジに不服だったようです、両者から同時に、審判の顔さんにグーパンチが炸裂しました。


 クリーンヒットやなぁ。


 なんだなんだ、機材トラブルか!? 突然、画面が真っ暗になってしまいました。


 主が気絶してもたんやなぁ。


 気絶です。選手の暴走により、モニター機能が停止してしまったため、試合は一時中断となります。

 再開まで今しばらくお待ち下さい。

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