第2話 破壊の為にすべき事

そうと決まれば早速!と言わんばかりに行動を開始した。俺は昔から行動力と積極性だけは強いのだ。



何をするにもまずは敵情を知る。相手を知らぬ事にはそんな戦い無謀なのだ、破壊するなら徹底的に。


立ち上げ終えていたADを一度落とし検索ツールを開く。

検索バーに目下の敵、今後討ち取る大将の名であるジエンデの名を入れる。

するとどうだろう。検索候補がつらつらと上がっていた。


何が【ジエンデ 神ゲー】だ。と悪態を吐きながらホイールを回す。


そこから広がるのはやれ、【最強は両手剣! これを見れば両手剣マスター!】だの【現環境最強は電子銃。情報で相手を制せ!】だのの武器を扱う紹介動画や、ストリーマーによる生配信、ゲーム実況者によるプレイ動画など、多くの人間がプレイし、またそんなプレイヤーに魅せられ集まっている事が伺えた。



…認めよう。

俺達ADの負けだと。



適当に配信動画を選んで見てみたところ、世間に言われていた通り圧倒的なゲームのが伺えた。


まず何をとっても綺麗だ。

視覚に入る以上まずは何をどう取ってもビジュアルやグラフィックに目が行く。対戦ゲームにそこまでの美麗さは必要か?と思うかもしれないが、対戦ゲームは新規参入がないとやって行けない。ごく一部が身内で遊んでいるだけではダメなのだ。やはり視覚に訴えかける要素というのは侮れず、解像度の低いAと高いB、どちらのゲームを遊びたいですか?と問われた場合、グラフィック以外の他の要素がほとんど似ついていたならば君はどちらを選ぶだろうか。


答えはレトロゲーマーでもない限り良い方であるBを選ぶだろう。

そして選ばれなかったAが我らがADなのだ。



次の要素として内容。

どうやらカスタム機能が存在し、AD同様1v1タイマンのみならず、最大5v5集団戦まで可能だという。

この集団戦、という存在がエッセンスとなっていた。タイマンの胸を熱くさせるような真剣勝負という物はプレイヤーはもちろん、その配信や動画を一緒に盛り上がる視聴者にも伝染する。そこに集団戦だ、チームプレイだ。


チームメイトのピンチを推しがスーパープレイで大逆転する興奮。

もしかしたら俺も私もこの配信者と同じ戦場で戦えるんじゃないかという期待。


その熱さ楽しさ期待に視聴者は惹かれ、ゲームそのものが面白い上に数字も取れるときたら配信者動画投稿者達はこぞって流れていくのも無理はなく、名のある大手以外にも、多くの配信動画が世に出ていて一定の数字を持っていたことからもそのことが伺えた。



続く要素に運営の対応があった。

全力で俺達ADを潰そうとしていたのか、ジエンデ運営のサービスは手厚く、事あるごとにゲーム内外で大会が行われていた。賞金はもちろん、知名度も得られる為、配信者達も参加することが多かった。またそれが非参入のプレイヤーの呼び込み広告になり… と無限ループしていた訳だ。


またゲーム内ランキングも存在し、総合ランキング、武器種ランキングと、その道極めることが出来ればランキング欄という名誉に名前が載るかもしれない、という憧れ。

総合ランキングしかなく、かつ上位が入れ替わる事も滅多に起きなかったADとはやる気の入れようが違うだろう。



と。ここまで誉めたが、褒めてしまったがまだ負ける訳にはいかない。俺の天国エデンを破壊してくれた馬鹿どもに鉄槌を下さねば気が収まらない。


もはや暴走特急と化していた思考を、冷蔵庫に買い置きしてあったエナジードリンクで冷やし再度考える。


ADに人が帰ってくる術を。


ジエンデよりもおもろい世界があるのだと伝える術を。


またADに注目が集まるその術を…ッ!




「…俺も配信すりゃ良いじゃんか。」



何度だって言おう。

俺は昔から行動力と積極性だけは強いのだ。


知識も、認知度も0だ。持ち合わせていない。

だが持ち合わせていない訳じゃない。



彼を動かすのは復讐心。



まずは環境だ。

配信環境を整えない事には何も始まらない。


今ADを土俵に配信したのではどれだけスーパープレイをしようと、どれだけ人を魅せる動きをしようと人の目には留まらない。


なぜ俺がライバルゲームを遊ばなくては行けないんだ…と苦渋の決断でジエンデを購入すポチる。起動後の設定は後だ。



続いて配信媒体。

こればっかりは全くといって良いほど知識がない。


このようなジャンルで頼れるような友人が居なかった俺は、誰でも聞いたことがあるくらいの大手配信者である、【天星あまほし そら】が動画に出していた、【誰でも始められる! 猿でもわかる動画配信】なる動画を見て学ぶことにした。


内容はとても分かり易く、それこそ本当に猿でも始められちゃうんじゃないか…? なんて錯覚に陥るほどの丁寧さの動画であった。


俺は当然猿以下ではないため無事に… いや少し戸惑いながらも彼女の勧める配信環境を整え終えることができた。



最後にひとつ。これが1番大切かもしれない。


だ。



俺も1人の配信という方法を用いた表現者となるのだ。人の目に付かなくては物語は始まらない。


ではどうすれば目に留まる?


人を魅せ、また見たいと思わせるような実力か?


-答えはNO。 まず目に留まらないので実力があっても意味はない。



人を集め、心弾む軽快な会話でずっと聴いていたいと思わせるトーク力か?


-こちらもNO。目に留まらない。口コミすら目に留まらないと始まらない。



答えはだ。導入だ。1発目のインパクトだ。


全てを1撃で惹きつけるような、そんなタイトルが好ましい。



かくして、俺の配信アカウント、そのチャンネル名が決まった。




【凸歓迎 来たやつ全員ボコしますch】と。

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