第5話 世界の事

俺はラウラと共に武器を見繕うことになった。

意味不明な呻き声で何かを言いながら洞窟からラウラが取り出したのは。原始的な武器群だ。

槍、棍棒、石斧、弓。4種類だ。


それにしても…この石材はそこらに転がってる黒曜石などを使えばいいとして、この木材やひも状の繊維質は一体どこから調達したのだろうか。

彼らを育てた食料も然り。見たところ、この山には【ポリューション】腐敗の女神ブラグザバスの魔法を受けたが如く、ぺんぺん草の1本も生えていないように見えるが…。


俺がラウラに出された武器を吟味していると、物珍し気に様子を見ていた子供達が気づけば一緒に武器を囲んでいた。

ラウラと同じく意味不明なうなり声を発しているが、やはり何を言っているか分からない。

メイエルが来なかった場合を考えても、ラウラと同行することを考えればやはり彼らの言葉を理解する必要があるか。


俺はこの世界のことを何も知らないのもあり、しばらく彼らの生活ややりとりを観察することにした。


数日観察してすぐに分かったことが2つある。

1つは、この世界のラウラと同じ人間…未来人(仮称)には暗視能力がある。

この世界は太陽が出ておらず、赤い月明かりと星明りだけで、常夜というにふさわしい暗さだ。

しかし、彼ら未来人にはそんな暗さなどないかのように動く。過去の世界での夜の暗視持ち種族と挙動が同じだ。

あまりにも武器が貧弱すぎて修理方法を習得しようと暗さに苦戦していたら、子供達がひったくって暗さなどないかのように分解・組み立てをしてしまったのだ。

世界に順応した結果なのだろうか。


もう1つは彼らの資源調達源だ。

彼ら未来人は動植物の竜屍兵ダムドの体を何度も再利用していた。

完全破壊していない竜屍兵ダムドの体を縛り上げ、黒い霧に戻し、再生したところを回収してその身体から有機資源を生きたまま(?)剥ぎ取るのだ。

むごいと思うと同時にあまりにもたくましかった。

まぁつまり、竜屍兵ダムドを喰っていたということで、この武器も竜屍兵ダムドからできているということなのだ。

竜屍兵ダムドから生き血を啜っているところを見たのは流石にドン引きした。


しかし、おかしいことがある。

竜屍兵ダムドは確かに不死なのだが、それはフォールンドラゴンが身に纏う魔竜の瘴気内での話だ。朝6時に復活する。

魔竜の瘴気の外で倒してしまうか、死体を魔竜の瘴気の外に1度出してしまうと灰のように粉々になって二度と復活しない。

未来人がやっていることは明らかにそれと矛盾する事象だった。

性質が変わったのだろうか。


流石に生食は嫌だから火をおこそうとしたところ、オババ様に止められた。


『待ちな。火は使うな。』


オババ様が憂鬱な表情で制止した。

その言葉には長い時間を経た知恵が感じられた。


「?なぜですか?」


『さてね、ニールダ様の遺言の一つさ。

 火を使わずにひたすらここに隠れるようにとね。

 火のことはここを出ていく勇者にしか教えてないんだよ。

 ここでは使わないでおくれ。』


火、火か…。

そうか、確かフォールンドラゴンは死体を燃やすことで魔竜の瘴気を消滅させることができる。

この手順を踏んだ場合のみ、下位竜屍兵ダムドスレイブは復活する。恐らく俺達が復活したルートだ。

ラウラがフォールンドラゴンを倒し、燃やしたから俺達は復活したのだろう。


つまり、火はある意味フォールンドラゴンの脆弱性ともいえる。

脆弱性だからこそ、フォールンドラゴン達が火に対して何らかの警戒心を抱いている可能性はあるか。


そうか…思えばニールダ様も魔法文明時代に誕生した神だしな。

よく考えればフォールンについて知っているか。

奴らへの対策こそが、この戦いの鍵を握るだろう。



数日後、メイエルが決意を伝えてきた。


「オルス様、私も行くことにしました。

 これからよろしくお願いします。」


「そうか、よろしくなメイエル。

 お前が来てくれるとは頼もしい。

 何か武器を持っておくか?」


「…ロクなのがありませんわね。

 私は魔法を使えるので最悪なくても構いませんわ。」


メイエルは俺達が弄っていた武器を見てそう述べる。


「なら、魔法の杖としては期待できないが、杖代わりに槍を持っておけ。

 道中は山だからな。ないよりはましだろう。」


そう言ってメイエルに槍を何本か渡した。

かくいう俺は紐で槍と石斧をいくつか装備した。

ラウラを含め、未来人共が目を輝かせて俺にもやってくれと言わんばかりに紐と武器を渡してくる。

やってやった。


メイエルが真語魔法でファミリア猫を作成していた。

この暗い世界ではいい選択だ。

見たことのないものに非常に未来人達は驚いていた。


集落の外に置いてきた者達もこちらにやってきた。

きっと数日見てオババ様が許可を出したのだろう。


彼らと情報共有をする。

オババ様という神族直系の生き残りがいること。

ここが未来であること。

俺達の世界はドラゴンレイドによって滅んでいること。

ラウラたちが生き残りの子孫である未来人であること。

俺達は下位竜屍兵ダムドスレイブになっていたこと。


彼らからは全員起きたこと。

神官もいたが案の定神の御声がしないこと。

オババ様に送り出された過去の勇士達が紛れ込んでいたこと。

やはり俺とメイエル以外に、過去の者で戦闘に耐えうる者は神官様ぐらいしかいなかったこと。


共有して絶望する者が多かった。泣いた者もいた。


逆に…。

オババ様と勇者達は再会を果たしていた。

オババ様は全員覚えているようだった。

1人1人名を呼び、抱きしめていた。

彼女にとって、彼らはそれぞれが愛した子であり、苦心しながら見送った者達なのだろう。

会うことはもうないと見送った者達との長い時を超えた再開。

絶望した者達とはまた違う涙を流していた。

彼らもまたその温もりに包まれた。時を越えた再会は、一時埋まらない心の穴を少しだけ満たしてくれたのかもしれない


俺は戦える者を集めた。メイエルに翻訳してもらう。


「俺の名はオルス。この時代よりずっと昔の人間だ。

 この黒い霧、そして黒い霧から出てくる化け物…フォールンと竜屍兵ダムドのことについてもある程度知っている。

 ラウラはフォールンドラゴンを倒すという偉業をこの暗黒の世界にて為し、この一帯を解放した。

 別のフォールン達が、遠からずここの様子を見に来るだろう。

 その者達とここで集団同士の戦闘が恐らく起こる。戦える者は、ここを守りたいものは武器を取れ。

 それともう一つ。俺、ラウラ、メイエルの3人は世界を救いにいく。

 共に世界を救いたいと思う勇士よ、一歩前へ。」


流石過去の勇者達。かなりの数が志願した。

志願しなかった者を数えた方が早いぐらいだ。


あまりにも多かった事から俺が全員と手合わせしたが、全員俺より強かった。身も心も。

唯一勝ったのは俺が先制を取ることができたことだけだ。

冒険者は魔法や練技と言った小手先の技術で力を付ける。

一方、彼らのは純粋な技量が高い縦伸ばし

一定の育て方をされる兵士と戦っているような感覚だった。

ついでにメイエルに操霊魔法の心得があり、【アースヒール】回復魔法が使えることが判明した。

未来人達は回復魔法の存在にとても驚いていた。


「まさか全員こんなに強いとはな…。

 なぜ負けたのか教えてもらってもいいか?」


彼らの話によると凡そ以下のとおりである。


化け物の集団に遭遇し、数に負けた。

竜を見つけることができず、黒い霧に飲まれ、意識を失った。

竜に勝ったはいいが、相打ちになった、火を起こせなかったなど。


竜に辿り着けなかった者が大半で、倒したが、フォールンの葬儀を行えなかった者が残りだった。

竜に直接負けたものがいないのは恐らく食われたのだろう。

食われて竜屍兵ダムドになった者は下位竜屍兵ダムドスレイブではなく上位の竜屍兵ダムドになるため元通りに復活することはない。


竜に関しては全てドラゴネット級の雷竜で共通していた。

竜屍兵ダムドは魔竜の瘴気内では蘇生するが、フォールンまで蘇生するとは聞いたことはない。

黒い霧にフォールンドラゴンを蘇生する効果があるということか。

やはり、あれは魔竜の瘴気とは違う。


因みに、ラウラは竜屍兵ダムドの集団と竜を同時に相手にしたそうだ。

というか俺達がその竜屍兵ダムドの集団だったそうだ。つまり俺達が束になって掛かってもラウラには勝てない。

やはり英雄となるものは格が違うということか。


この話はオババ様にフィードバックしておいた。

俺達が全滅し、ラウラによる解放以前に戻らないとも限らない。

あの人は人々にとって希望の命綱だ。あの人さえ生きていれば最悪また同じようなことが起こせる。

例えどんなに時間がかかろうとも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る