第2話 彼の正体
ほとんどの者が目を覚まし、今はただ静かな時間が流れていた。
全員が目覚めたわけではないが、大半が意識を取り戻し、周囲を見回している。
不安そうにする者、混乱している者、冷静に見極めようと沈黙する者と様々だ。
俺は、この奇妙な状況を理解するため、
「まずは、全員出身地と名前を教えてくれ。
俺はザルツ地方ルキスラ帝国のオルスだ。」
良いニュースと悪いニュースがある。
良いニュースは目覚めた者達は
悪いニュースは彼らの出身地がケルディオン大陸、レーゼンルドーン大陸、エイデル島、七王群島だの出身地がばらばらだったことだ。
ここがどこかの情報にはなりそうにない。
「この中に
真語魔法には【タング】という翻訳魔法がある。
俺達は今なにも身に着けてないため、魔法の各種触媒すら当然持っていないが、真語魔法ならば【クリエイト・デバイス】で触媒の都合が付けられる。
名乗り出たのはメイエルという人間の女性だ。
…この人、すごい美人だな。貴族の出だろうか。
「私が使えます。」
「彼に話を聞いてくれないか?翻訳をしてほしい。」
「畏まりました。
第一の詠唱で指輪のような触媒が出来上がり、第二の詠唱で下着のような触媒が出来上がり、彼女はまずそれを身に着けた。
なるほど、形状任意の魔法で簡易な下着の作成か。賢い。
さぞ高貴な出自に見えるからな。最低限の身だしなみは大事だろう。
彼女の振る舞いは全裸で諦めていた俺に羞恥心を思い出させてくれた。
「
第三の詠唱でようやく指輪を作り、第四の詠唱で【タング】を詠唱した。
そのままメイエルは彼と話をする。
メイエルと彼は意味不明なうめき声で会話した。
翻訳はされたが、話の内容は混乱を招くだけだった。
「彼は何と?」
「今のはなんだ?と言っています。魔法だと言っておきました。
それと理解はできますが、言語名がありません。」
【タング】という魔法は便利なもので、言語名も判明する。
しかし、言語名が無いのは異常だ。
赤い月の星空と闇の雲海が続く世界を眺める。
赤い月が浮かぶ禍々しい空を見上げ、俺はこの世界がかつての文明を失っているのではないかと考え始めた。
「俺達はなぜここにいるか聞いてもらえるか?」
「畏まりました。」
再び意味不明なうめき声で会話する2人。
「竜を倒したら霧が晴れて戻った!とおっしゃっています。」
メイエルがその彼から聞き取った話を訳す。
竜を倒したことで霧が晴れ、彼らが元に戻ったというのだ。
竜という言葉が頭に引っかかる。
「竜を倒すと化け物から解放される…か。」
俺は小声で呟いた。
竜を倒したら化け物から戻る。
この現象に心当たりがある。フォールンと
つまり、俺達は
彼がフォールンドラゴンを倒し、俺達が
フォールンドラゴンを?
こんなまともに使ったら折れそうな粗末な槍一本で?全裸で?
正気か??????????????????????
俺とて
"黒い霧"に飲まれる前で同じ条件なら
いや、よそう。
事実だ。彼は紛れもない英雄だ。
たった1人で偉業を成し遂げたのだから。
俺達は彼に救われたのだ。状況的に疑いようがない。
皆驚いてる。俺も驚いてる。
だが、話を停滞させてはいけない。
話を進めよう。
「彼の名前を聞いてもらえるか?」
メイエルが意味不明なうめき声で質問する。
「ラウラ。」
「ラウラというらしいです。」
どの言語になっても、言語体系が瓦解しても固有名詞は共通らしい。
ラウラの口から初めて理解のできる内容を聞いた。
「英雄ラウラよ、これまでの非礼を許してくれ。
あなたは一体どこから来たのですか?」
メイエルが彼に翻訳すると、ラウラは山の頂から来たと答えた。
「この山の山頂か…よし、ここにいても仕方ない。皆で山頂を目指そう。」
残る目を覚まさない者たちを担ぎ上げ、俺たちは山頂へと向かうことにした。
皆不安な顔をしているが、向かうしかない。
会話が終わると、メイエルに下着を作ってもらおうとする者が続出したが、【タング】に使うマナが限られているため、全員が断られてしまった。
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