第27話「死霊非法」
「……ルコリネはどうだった? 手強かった? 少しはてこずったかな?」
「なかなかの怪物だったが、所詮は動物だ。相手にならなかったよ」
彼女の正面に立つジュリアスが代表して答える。
彼の横には帯剣した正騎士ライルが立ち、反対側にはガウストが立っている。
やや離れたところで見守るのがゴートとディディーの二人。
その二人とジュアリス達の中間にいるのが宮廷魔術師のノーラに護衛のボスマン、エリスンの二人だ。ノーラは本来、このような危険な場に出るべきではないが今回は人任せには出来ないので出張っている。
「それじゃ、そろそろ答え合わせといこうじゃないか。俺は頭が悪いんでね、
「……それで?」
「それで? いや、それだけさ。あれが召喚獣だった、それが正しかろうが、外れてようが、それだけだ。お前はあれを
「ふぅん……まぁ、それはそうだよね」
しかし、アンテドゥーロの反応はあっさりとしたものだった。
「ルコリネは言ってみれば単に匂わせただけだからね。あれで正解にたどり着いたら逆にびっくりしちゃうよ」
「だったらいい加減、思わせぶりな言動はやめてはっきり物申してくれないかね? 分かり易い仕込みとやらをここで披露してくれるんだろう?」
「随分とせっかちだね。でも、いいよ。その代わり想像通りか想像を超えていたか、正直な感想を聞かせてもらうけどね!」
前と同じように短剣を地面に投げ付けて、叫ぶ!
「〝
「またそれか……!」
呪文を受けて短剣は弾け、墨のような液体に変わると芝生を、その下の大地を黒く
「ルービック・カルアネデス! 我が呼び声に応えて出でよ!」
──アンテドゥーロの呪文、いや、呼び出しか!?
展開された漆黒の転送陣は
出現した人影は黒衣の男である。
衣服だけではなく革靴も小物も漆黒で統一し、頭髪や短く整えられた髭はそれらと相反するように白い。顔には
「さて……何から喋っていいものかな」
彼自身は呼び出した術者──アンテドゥーロにまったく意識を向けることなく
「とりあえず、自己紹介から始めてみるか。
「身の上なんか聞いても分からんよ。だから、率直に尋ねる。アンタは人間か?」
「……その
「ほう……?」
「それから我輩、ルービックという人物について知りたいのなら答えようもあるが、呼び出されたもの、正体について知りたいなら呼び出した当人に聞く以外あるまい」
そう言うと、ルービックが首だけで後ろを振り返る。
……皆がアンテドゥーロの言葉を待った。
「ふふふ……もう気付いたかもしれないけど、これこそが
「降霊術? 完全な、ねぇ……」
ジュリアスは
「降霊術……?」
「見た事も聞いた事ないな……」
ジュリアスの後ろで話すゴートとディディーの二人。
「俺も体験した訳じゃないから、
それを耳にしたジュリアスが一言、前置きしてから語り始める。
「……降霊術って秘術は、ざっくりと言えば
すると、宮廷魔術師が口を挟む。
「戦後から少しして色々な街で流行ったようだけど大概いんちきだったらしいがね。水晶に投影されたのは依頼者の記憶が見せる
「……今、婆さんが補足したようにそういう連中も多かったと聞く。だから真面目に降霊術を研究していた魔術師の肩身は狭く、文献でも記述は少ない。何より詐欺師の
「へぇ、魔術師だけあって雑学に詳しいねぇ」
まるで
「問題は、だ。従来の降霊術、伝え聞く本物の降霊術とやらは、死者の霊を術者本人か、他の人間に
「それじゃ、肉体を伴って降臨したということが……」
「その通り! 完全な降霊術、"死霊非法"という訳さ」
ゴートのつぶやきを耳聡く
(死霊非法──完全な降霊術。婆さんはあの怪物を見て召喚獣と表現した。俺もその見立てに間違いはないと思う。だが、人間は召喚獣にならないはずなんだが……)
「ふふ、何を悩んでいるのかな? なら、もっと悩ませてあげようかな。懇切丁寧に説明して欲しい、と言ったのは君の方だからね? ……ルービック=カルアネデス!」
彼女は声を張り上げて、召喚した者の名を呼ぶ、
「如何にもルービックだがカルアネデスというのは知らんな。我輩にそのような姓も名も無い」
「こっちだって知らないよ、アンタの本名なんかさ。そんなことより、命令だよ! 今から
「……正気か?」
アンテドゥーロからの意味不明な命令に
その返答に満足そうに彼女は──
「……と、いうことさ」
ジュリアスとノーラ、二人の表情を覗き込みながら、これみよがしにそう言った。
魔術師達の表情は先程から一様に
「──召喚獣というよりも精霊との関係性に近いのかねぇ?」
「人間と精霊では立場が逆だぜ、婆さん。召喚獣と精霊じゃ扱いはまるで正反対だ」
片足を一歩引いて体勢を半身にして、ノーラの方を見ながらジュリアスが答える。
一般に召喚獣は召喚者が支配、使役するもの。術者の命令は絶対で逆らえない。
精霊は逆にジュリアスが口を滑らせたような幻想的存在を除き、基本的には術者が力を貸してもらう上位存在である。
「……あくまで類似的な話だよ、坊や。あのルービックとやらの言動から察するに、そちらが近いだろうとね」
「我輩の応答がそんなにおかしいかね? 極めて常識的な判断のつもりだが……」
少々困惑しながら、ルービックは呟いた。
「それとも何か? 呼びつけられた人間はどんな命令でも必ず従わなければならないような、そういう制約でもあるのか?」
「まさか! そんな制約は死霊非法にはないよ。だけど──」
彼らの会話に割り込むと、アンテドゥーロは続けた。
「引き受けてもらいたい仕事はあるかな。此処にいる人間を力の続く限り、皆殺しにして欲しいんだよ。……貴方なら出来るよね?」
*****
<続く>
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