第2話「道すがら」
魔術師のジュリアス。彼の弟子の一人、ゴート=クラース。
その二人と並んで歩く浅黒い肌の青年の名前はディリック=ディオードといった。
だが、ディリックと名前で呼ぶのは家族くらいものだ。
彼は昔からディディーと呼ばれていた。彼自身もそれを愛称としている。
この国では珍しくもない漁師──船乗りの息子で兵役※(
──そして、その誘われた同期というのがゴート=クラースだ。
何処となく気弱そうな、
最後に紹介するのが、彼らを先導するように少し前を歩く者……年齢は不詳だが、おそらくは三人の中で年長者の魔術師、ジュリアスだ。
彼は自身が魔術師である事を周囲に誇示するように、冒険者をやる時は絶対に黒い
その魔法の知識と人生経験はまさしく歴戦の魔術師で一行の隊長格……ではあるのだが、本人はその扱いを露骨に嫌がっている。
──
確かに物語などでの魔術師の役回りはそういうものではあるが、おそらく性格的に面倒くさがってるだけの方便だとディディーもゴートも疑っていた。
*
──三人は今、
「打ち上げってのはやっぱり元気な時にしなくちゃな!」
「……まぁ、疲れてる時は何も食えませんもんね」
「昨日も大して疲れてたわけじゃないけどね」
「だが、昨日は昨日で金が無いからな」
「窓口が閉まったら、それはしょうがないよ……」
……などと、談笑しながら三人がこれから向かおうとしているところは贔屓として利用しているいつもの料理店だ。そこは〝黒猫亭〟という名前で昼は食堂、夜は酒場の顔を持つ、中央区の大通りから少し外れた場所にある。
時間は
この時間帯ならば、多少長居してもそこまで迷惑にはなるまい。
……十月も半ばに差し掛かったが、日中はまだまだ暖かい。
彼らが店に到着するまでの道すがら──
「──ところで、ジュリアスさん」
「……うん、なんだ?」
「さっきの話なんですけど。討伐の依頼、なんで断ったんですか?」
「うん? ……ああ、討伐っていうか駆除依頼だな。まぁ、単純に面倒っていうのもあるけど、ひとつは飛び道具なしにどうこう出来る相手じゃない、ってとこかな」
「あぁ……まぁ、
──猪という獣は意外に大きい。しかし、昔はそれほどではなかったという。
ジュリアスが小耳に挟んだところでは家畜として飼われていた豚が脱走し、それと交雑して産まれた個体が、さらに繁殖し──ねずみ算的に増えていってしまったのが大型化の原因であるらしい。あくまでまことしやかに
昨今の肥大化してしまった猪では例え三人がかりでも対策なしでは相手にならず、立ちはだかろうとも簡単に跳ね飛ばされてしまうだろう。容易に想像出来る。
「それと野犬もな……ありゃ下手な魔物を相手するより怪我する確率は高い。そりゃ蹴飛ばしたりしてあしらえたりするけどよ。野犬とはいえ姿は犬だ、
「まぁ、それはそうっすねぇ」
言われてみれば確かに、とディディーも同意する。
「そもそもあの依頼、どうにも俺だけを当てにしてる頼み方なんだよなぁ……だからまぁ、あんな風に茶化して表向き
「うん、そうですか?
「まぁ、
「うん、まぁ……んー……」
そういう風に言われると反論は出来ず、ディディーは言葉に詰まって唸るだけだ。
すると、横で会話が終わるのを待っていたゴートがジュリアスに話しかける。
「……ジュリアスが頼まれたのは、やっぱり魔術師だから?」
「そりゃそうだろう。猟師の真似事──いや、代役を頼んで務まるのは弓士を除けば魔法って飛び道具が使える、魔術師や魔法使いぐらいだろうし」
「……だけど、僕らはジュリアスの実力を知ってるけど、ギルドや他の人達はそれを知ってるんだっけ?」
「いや? まだ知らない
ゴートの指摘を受けて、人差し指の爪に火を灯したジュリアスが受け答える。
火は
「なんていうか、ちょっと引っ掛かるね……」
「まぁ、協会としても早々に俺の実力を把握したい──いや、化けの皮を
「──あっ、そういう線もあるのか!」
「そう言われれば……そっちの方が正しいかもしれない」
ゴートもジュリアスの考えた方に同調した。
「けど、そんなもんをを気にしてたってしょうがない。俺達は気にせず俺達に出来る仕事を全うしようぜ。初心者のうちは変わり映えしない仕事が続くが、これも下積みってやつだ。国は一日にしてならず、とも言うしな」
ちょうど会話の区切りと大通りから道を曲がる時機が重なった。
もう少し歩けば、目指す黒猫亭が見えてくる。
心持ち足早になり、一行は店に向かっていった。
*****
<続く>
・「火を灯す魔法」
「(正式には〝
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます