第6話 報復

 蘇芳は、自分と入れ違いに屋敷を出た瑠璃、やけに上機嫌で戻って来た事を訝しく思っていた。


(何か良い事でもあったのか?)


 最近は蘇芳があまり瑠璃の相手をしない事に不満を抱いているらしく、顔を合わせば文句を言っていた。


 そんな瑠璃が鼻歌でも歌いかねない位の浮かれぶりは何とした事だろうか?


(まさか、浅黄に何かしたのか?)


 さっき浅黄と会っていた時に瑠璃の気配を感じたような気がしたのは気の所為ではなかったのだろうか?


 嫌な胸騒ぎに責め立てられるように、蘇芳は屋敷を飛び出した。


 浅黄の無事を確認すれば、すぐに戻るつもりだった。


「浅黄、浅黄!」


 何度も声をかけるが返事がない。


 焦った蘇芳が戸を開けた途端、異臭が鼻を突いた。


(何だ、この匂いは…?)


 青臭い匂いと血の匂いが家の中に充満している。

 

 恐る恐る足を踏み入れた蘇芳は奥に全裸で倒れている浅黄を見つけた。


「浅黄!」


 浅黄に駆け寄った蘇芳は、既に彼女が事切れているのを確認した。


 だが、浅黄のその身体の惨状に蘇芳は凍り付いた。


 浅黄の身体のあちこちに体液がこびり付き、蜜口からも白濁が垂れていた。


 囲炉裏の縁に寄りかかっている頭から出血していて、身体にもあちこち掴まれたような跡が付いていた。


(何て事だ…)


 こんな事になるなら誰に何と言われようと、屋敷に連れ帰れば良かった。


 だが、それだと自分の正体を知らせなければならない。結局のところ、蘇芳は自分が鬼だとわかって浅黄に拒絶されるのが怖かったのだ。


(すまない、浅黄。せめてお前をこんな目にあわせた下手人には私が仇を取ってやる)


 蘇芳は残された体液の匂いを元に、犯人の足取りを辿った。


 里の中を歩き、一軒の家に辿り着いた。


「ここか?」


 戸を細く開けて中を覗うと男が三人酒を飲んでいた。


「いや、しかしいい女だったな」


「全くだ。お前が殴らなきゃもっと楽しめたのに」


「仕方ないだろ。あの女が俺のを噛むのが悪いんだ」


(こいつらで間違いないな)


 蘇芳は鬼の姿になると、戸を蹴破って中に入った。


 いきなり現れた蘇芳の姿を見た男達は、驚いて飛び上がった。


「お、鬼だ!」


「助けてくれ!」


 男達は命乞いをするものの、蘇芳の妖力によってその場から動けなくなっていた。


「よくも浅黄を殺したな!」


 蘇芳は手近にいた一人の男の首を捕まえて持ち上げる。


「ひいぃ、お助けを!」


 今更命乞いをしたところで許せるわけがない。


 蘇芳が更に首を締めると男はあっけなく死んだ。


 その男の体を放り出し、次の男を捕まえる。


「おまけに弄んでくれるとは…」


 男はぶるぶると首を横に振った。


「若い女に言われたんだよ。あの家の女は男に飢えているからどんな男でも相手にしてくれるって」 


(若い女? やはり瑠璃が関わっていいたのか?)


 蘇芳は残りの二人の体を真っ二つに引き裂くと、その家を後にした。


 蘇芳が家から出ると、騒ぎを聞きつけて集っていた人間が、鬼の姿を目にして叫び声を上げる。


「お、鬼だ! 鬼が出たぞ!」


(ちっ、面倒な!)


 蘇芳は村人には目もくれず、素早くその場から逃げ去った。


(さて、どうやって瑠璃に償いをさせようか)



 ******



 その頃、都では帝から源頼光、藤原保昌に鬼退治の勅命が下っていた。


 二人は八幡、日吉、熊野、住吉の神々に加護を祈り、四天王を従えて大江山に向かった。


 ******



 瑠璃は邪魔な女がいなくなって清々しい気分だった。


 あとはどうやって蘇芳を自分のものにしようかと考えていると、当の本人が部屋に入ってきた。


「あら、どうしたの?」


 瑠璃の問いかけに無言のまま、近付くと蘇芳はいきなり瑠璃を抱きしめて口づけをしてきた。


 驚きながらもその熱い舌が瑠璃の口の中に入り込んでくるのをうっとりと受け入れる。


(ああ、とうとうその気になってくれたのね。やはりあの女を始末して正解だったわ)


 瑠璃が口づけに応えていると、蘇芳は慣れた手つきで瑠璃の帯を解き、着物をはだけられた。


 そのまま瑠璃は床に押し倒される。


 蘇芳の唇が首筋から胸の突起に辿り着き、更に下へと這っていく。


 両足を広げられ、秘部を晒された時は少し恥ずかしかったが、蘇芳の舌が突起に吸い付いて来た時は歓びに打ち震えた。


 蜜口に指が差し込まれた時は、初めての感覚に瑠璃は腰を引こうとしたが,蘇芳のもう一方の手がそれを許さなかった。


 蘇芳は何度か出し入れした指を抜くと陰茎を取り出し、一気に瑠璃を刺し貫いた。


「ああーーっ!」 


 あまりの痛みに瑠璃が逃げようとすたが、蘇芳は両手で瑠璃の腰を押さえつけて更に奥へと突いてきた。


(初めてなのだからもっと優しくしてくれてもいいはずなのに…)


 そんな不満を抱いた瑠璃は、涙を滲ませた目を蘇芳に向ける。


「蘇芳、どうしてそんなに乱暴なの?」


 蘇芳は瑠璃を組み敷いたまま、冷たい目を向ける。


「お前は浅黄に何をした? 何もしてないとは言わせないぞ!」


(浅黄? それがあの女の名前なの?)


 知りたくもなかった女の名前を聞かされて、瑠璃は蘇芳を睨み返す。


「私から蘇芳を奪うからよ。でも死んだのは私のせいじゃないわ!」


 瑠璃の反論に、蘇芳は更に乱暴に突いてきた。


「お前が男達を差し向けるからじゃないか!」


「元はと言えば蘇芳が私じゃなくてあの女を愛するからよ!」


「くそうっ!」


 蘇芳は瑠璃の首に手をかけると一気に締めてきた。


(ああ、蘇芳は最初からこうするつもりだったのね…)


 瑠璃の意識はそのまま闇に沈んでいった。 


 

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