第22話 リセット

キーマスターが地に倒れ、静寂が戻った。しかし、その場にはまだ緊張感が漂っていた。俺たちは加賀に感謝しながらも、次に待ち受けるものへの不安が消えないまま立ち尽くしていた。


「やっと終わったか……」


仙台が息を整えながら呟いた。彼の3秒で到達する能力も、キーマスターの圧倒的な支配力の前では一度は封じられてしまっていた。それでも、加賀のサイコロと俺たち全員の力を合わせた結果、キーマスターを打ち破ることができたのだ。


「でも……この感じ、まだ何かがある気がするわ」


桐生が不安そうな表情で周囲を見渡す。彼女の目の鋭い視力は、この場所の異様な雰囲気を察知していた。キーマスターが倒れたにもかかわらず、何かが動き始めている気配がする。


「確かに、油断はできないな……」


俺もその場の空気に違和感を覚え、警戒を強めた。


その時だった。


「フフフ……愚かだな。お前たちが“勝った”と思っているのか?」


キーマスターの倒れた身体から、かすかな声が聞こえた。血まみれでボロボロのはずの彼が、まだ笑っている。倒れ込んだ姿勢のまま、薄暗い微笑を浮かべていた。


「何だと……!」


俺たちは全員、驚いて彼を見つめた。キーマスターはゆっくりと手を持ち上げ、その手が再び空中で何かを操るように動く。そこに再び、光のキーボードが浮かび上がった。


「くそ、まだ……」


「お前、しぶといな……!」


加賀が苛立ちながらサイコロを構えるが、キーマスターはもう一度笑みを浮かべた。


「お前たちはわかっていない。私はキーボードを操るだけじゃない。この場所そのものを……いや、この世界さえも……」


キーマスターが言い終える前に、空間が急に歪み始めた。まるで現実そのものが揺らいでいるかのように、足元が不安定になり、景色がぼやけていく。


「何が起こっているんだ……?」


俺たちは動揺しながら、周囲の変化に戸惑った。視界が揺らぎ、空間そのものがねじ曲がっていく。


「これが、私の最終手段だ……“リセット”だ」


キーマスターの声が、ぼんやりと聞こえてきた。彼がキーボードに打ち込んだのは、「リセット」の文字。その言葉通り、この空間が全て巻き戻されようとしている。


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