第16話 一人の男

建物の中に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。数多くの機械と、中央に立つ一人の男。彼は不気味な笑みを浮かべ、俺たちを迎え入れた。


「ようこそ、部分強化者たちよ。君たちの力は実に興味深い」


その男は、まるで俺たちの動きを予測していたかのように落ち着いていた。彼がこの暴走を引き起こした張本人であることは明らかだった。


「お前が……すべてを操っていたのか?」


俺は怒りを抑えきれず、男に詰め寄った。だが、彼は冷静に微笑むだけだった。


「君の力、“正義”は面白い力だね。どんな暴力も法に触れない——つまり、君がいくら荒れ狂おうと、何も問題ないというわけだ。だが、正義とは何だろうね?本当にそれが君の望むものか?」


男の言葉は、まるで俺の心の中を見透かしているかのようだった。俺の「正義」という力に対する疑問を、鋭く突いてきた。


「お前に何がわかる……!」


俺は怒りに任せて左腕に力を込めたが、その瞬間、桐生が俺を制止した。


「落ち着いて。今、冷静にならなきゃ負ける」


彼女の言葉に我に返り、俺は一度深呼吸をした。確かに、ここで感情に流されれば、相手の思う壺だ。


「俺たちの力をどうするつもりだ?」


俺が再び問い詰めると、男は薄笑いを浮かべながら答えた。


「君たちの力は、人類の未来を変える鍵になる。だが、それは“正義”ではなく、“力”そのものが支配する世界だ。君たちはまだ、その意味を理解していないようだ」

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