第14話 戦いの中での覚悟
数日後、俺たちはまた暴走者の報告を受け、現場に向かっていた。今回は、以前よりも凶暴な暴走者が現れたとのことだった。場所は人気のない山の中腹にある研究施設。そこでは一部の「部分強化者」の研究が行われていたが、実験が失敗し、暴走者が発生したらしい。
「今回は強敵だ……」
仙台が緊張した表情で言う。俺もその気配を感じ取っていた。これまで以上に危険な相手であることは間違いない。
施設に到着すると、すでに暴走者が研究員たちを襲い始めていた。全身が筋肉の塊のようになっている巨大な男。その動きは異常なほど早く、俺たちの攻撃をかいくぐっていた。
「くそ、全然当たらない!」
俺は左腕に力を込め、何度も攻撃を試みたが、相手の動きが素早すぎて捉えきれない。
「仙台!お前の能力で背後に回れ!」
俺が叫ぶと、仙台はすぐに反応し、指定したポイントに3秒できっかり到達した。しかし、その瞬間、暴走者の動きは予想以上に早く、仙台の攻撃をかわしてしまった。
「速すぎる……!」
仙台も焦りを感じていた。その時、桐生が前に出た。
「私がやるわ……」
彼女の目には決意の光が宿っていた。
「桐生、お前……」
「この目なら、相手の動きをすべて見通せる。この場で私がやるしかない」
そう言いながら、桐生はゆっくりと目を閉じた。そして再び開いた時、彼女の目の周りには赤黒く血管が浮き出ていた。醜いと感じるかもしれないその変化が、彼女のコンプレックスそのものだった。
「さあ、私の目からは逃げられないわ」
桐生は鋭い目で暴走者を見据えた。そして、彼女の強化された視覚が捉えたのは、暴走者の動きの一瞬の隙だった。
「今よ!仙台、右側の足元に向かって!」
桐生の指示に従い、仙台はその足元に再び3秒で到達。今回は暴走者が避けることはできなかった。仙台の正確な一撃が足を崩し、その隙を見逃さず、俺が「正義」の力でとどめを刺した。
暴走者は地に倒れ、戦いは終わった。
戦いが終わった後、俺たちは静かな夜空を見上げながら、それぞれの思いに浸っていた。桐生は自分の顔を手で覆いながら、小さく呟いた。
「やっぱり、私の顔……見て怖かった?」
俺は少し笑って答えた。
「全然。むしろ、その目のおかげで勝てたんだから、俺は感謝してるよ」
仙台も横で、桐生に向けて優しく声をかけた。
「桐生、怖くなんかないさ。むしろ、今のお前はすごく頼もしかった。あの瞬間、お前の指示がなければ俺たちはやられてた。だから、気にするな」
桐生は少し驚いた表情で二人の言葉を受け取ったが、すぐに恥ずかしそうに目をそらした。
「ありがとう……でも、私はまだ自分の姿が怖いと思ってる。自分自身を受け入れるのが、こんなに難しいなんて……」
彼女の声には自嘲が混じっていたが、俺はその言葉を聞いて、強く否定した。
「桐生、強さは外見だけじゃないだろ?お前がこの目の力でみんなを助けてくれた。それだけで十分だ。俺たちはお前の力が必要だし、その強さも含めてお前を信頼してる」
俺の言葉に、桐生は静かに頷いた。少しずつ、彼女の表情が和らいでいくのがわかった。
「そうね……これからも、私はこの力でみんなを助けたい。どんなに醜くなっても、それが私にできることなら……」
彼女は決意を固めたかのように、まっすぐ俺たちを見つめた。その強さと覚悟が、今まで以上に力強く感じられた。
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