第7話 暴力と正義の狭間で
その夜、訓練場からの帰り道、俺は一人で歩いていた。力の重みを感じながら、頭の中でぐるぐると同じ思考が巡っていた。俺の左腕に宿る「正義」の力——それは、この腕で振るうすべての暴力を無罪にする。だが、その力が本当に正しい使い方なのか、俺は未だに自分に問いかけ続けていた。
突然、街の静寂が破られた。遠くから爆発音が響き、叫び声が聞こえてくる。
「なんだ……?」
音のする方向へ駆けつけると、そこには建物が崩壊し、数人の人間が逃げ惑っていた。中心には一人の男が立っていた。彼の身体は異常に膨れ上がり、右腕がまるで異形のように変形している。
「暴走者か……!」
俺は即座に状況を理解した。この男も、俺たちと同じ「部分強化者」だ。しかし、彼はその力を制御できず、完全に暴走してしまっている。
「止めなきゃ……!」
俺は迷いながらも、左腕に力を込めた。男が無差別に建物を破壊し、人々を傷つけている——その瞬間だけは、俺の中の「正義」が揺らいだ。自分の力を使ってでも、止めるべきかもしれない。
「いくぞ……!」
左腕に宿る「正義」の力が、静かに目覚める。周囲の空気が変わり、まるで時間がゆっくりと流れるような感覚が俺を包む。男に向かって走り出した俺は、何の迷いもなく拳を振り上げた。
「止まれ……!」
一撃で男の巨体が崩れ落ちる。衝撃はまるで嵐のように広がり、周囲の瓦礫が飛び散った。だが、その瞬間、俺の中に奇妙な感覚が広がった。
何も……感じない。
俺は法的に無罪だ。この力を使う限り、どれだけの暴力を振るおうとも、俺には何の罪もない。だが、その無感覚こそが、俺の心を冷たくしていくような気がした。
「これが……俺の“正義”か……?」
男は完全に倒れ込み、動かなくなった。しかし、俺は勝利の実感が湧かない。ただ空虚な感覚が、胸の中に広がっていくばかりだった。
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