第3話 暴走者

廃工場に到着すると、周囲は不気味な静けさに包まれていた。仙台のメッセージは途絶えており、建物の中からはかすかな物音が聞こえる。俺は慎重に足を踏み入れ、暗闇の中を進んでいった。


「仙台……どこだ?」


声を出しても反応はない。だが、次の瞬間、背後から誰かの気配を感じた。


「やっと来たか……噂の“部分強化者”よ」


その声に振り向くと、そこには青いフードをかぶった男が立っていた。彼の右腕は異常に膨れ上がっており、まるで以前の暴走した男と同じような力を感じる。


「お前も……その力を持っているのか?」


「フフッ、俺はお前以上にこの力を使いこなしているさ。だが……お前の力も見せてもらうぞ」


男がにやりと笑った瞬間、廃工場の壁が一瞬で粉砕された。強烈な力を持った一撃が俺を襲いかかる。しかし、俺は左腕をすぐにかざして、その攻撃を受け止めた。


「……くっ!」


衝撃は強烈だったが、何とか踏みとどまる。しかし、男の攻撃は容赦なく続く。次々と繰り出される拳を避けながら、俺は反撃のチャンスをうかがった。


「これじゃ、いずれ力負けする……」


男は笑いながら俺に近づいてくる。彼の力は全身に広がっているようで、俺とは違い、部分的な強化だけではなく全身を支配しているように見えた。


「どうした?その程度の力で、俺に勝てると思っているのか?」


その言葉が俺を苛立たせる。確かに、俺の左腕の力だけでは限界がある。だが、その時、俺の脳裏に文献で読んだ一節がよみがえった。


「部分強化は、ただの力ではない。己の感情や意志が、その力を制御する鍵となる」


「感情……意志……」


俺は自分に問いかけた。この力をどう使いたいのか、どうなりたいのか。それはまだ曖昧だった。だが、今はただ、篠崎を助けたい、その一心だった。


「仙台……どこだ!」俺は叫びながら、男の攻撃をかわす。そしてその瞬間、暗がりの中からかすかに声が聞こえた。


「ここだ……頼む……助けてくれ!」


その声を頼りに、俺は無意識のうちに左腕に力を込めた。次の瞬間、左腕が今まで感じたことのない熱を帯び、光り輝き始めた。


「これは……」


その力は、単なる筋力の強化ではなかった。まるで左腕そのものが、新たな段階に進化したような感覚が体全体に伝わった。俺の中で何かが弾けたように感じた。


「これが……俺の本当の力……?」


男が一瞬だけ怯んだ。それを見逃さず、俺は全力で拳を振り下ろした。男の身体は衝撃に耐え切れず、建物の奥へと吹き飛ばされた。


「ふぅ……」


その場に膝をついた俺は、篠崎の方に向き直った。彼は瓦礫の中で震えていたが、無事だった。


「ありがとう、助かったよ……でも、お前のその力……なんだ?」


俺は答えられなかった。ただ、自分の中に眠っていた力が、今ようやく目覚め始めたことだけは確信していた。


…正義。おそらくこれが自分の能力の名前だろう。なぜか頭に浮かんでくる。



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