第15話 食事

 今更だが、おれ達の城での生活は朝、部屋で支度し、朝食を食べに、食堂に行くことから始まる。


 部屋は広く、洗面所もあるので、そこで顔を洗って、着替えて……


 服は向こうが用意してくれたもので、元の世界と比べるとゴワゴワしている。元々着てた服は動きにくい制服だから、部屋のクローゼットにしまったきりだ。


 脱いだ服は部屋のカゴに入れておくと、洗濯してくれる。


 今日は護衛つきだが、おれは手ぶらで食堂に向かうことができるのだ。


 食堂は、おれ達用に用意された小さめな部屋で、そこに料理人が食事を持ってきてくれる。


 座る席は大抵いつも一緒で、おれは席に着くと、隣りの徳永に挨拶した。


「おはよう」


「おはようございます。準貴族様」

 徳永が茶化してくる。


「茶化すな」


「いえいえそんな。当然のことでございます」


「ちなみにまだ証とかもらってないから、準貴族か分からんぞ」


「なんだ。敬って損した」


「ははは」


 その時、料理人が食事を持って、部屋に入ってきた。

 クラスメイトそれぞれの席の前に配膳していく。


 そして最後におれに今日のメニューを通訳してもらって、彼の仕事は終わりだ。


「今日のメニューは、黒パンと、トマトと生姜のスープでございます。パンはスープにつけて、お召し上がり下さい」



 ちなみに護衛の人達は、ここで交代の時間である。恐らく交代して、彼らも食事に行くのだろう。


「ところで、北村。例の件だけどさ」

 徳永がおれに話しかけてくる。


 例の件。…死体の件か。


「やめろよ」


 食事中だぞ。

 おれは小さくそう言い、パンをスープにつけずに、ぐっと齧って、口に入れる。……思ったより堅いな。


「そうだな。悪い。じゃあ、スキルについて聞きたいんだが」


「なんだ?」

 もぐもぐと、口に入れた黒パンを味わいながら尋ねる。


「お前って、こっちの世界来たらすぐ話せる感じだったのか?」


「ああ」


「言葉ってどう聞こえるんだ?」


「全部日本語」


「なるほど。じゃあ、向こうの人の口の動きと聞こえてくる音が合わなかったり?」


 おれはコップに入った水をごくりと飲み干し、答えた。

「ああ。するする」


「なるほど」


「どうしたんだよ」

 コップにおかわりの水を水差しから注ぎながら尋ねる。


「いや…今って戦闘系の訓練と、この世界の常識に関する授業しかしてないだろ? それだと、非戦闘系のスキルとか見つからないんじゃないかと思ってな」


 そう言うと徳永はパンをしっかりスープにつけて、パンを食べた。賢い。


「なるほどな。一理ある」


「だろ?」


 そこでおれはスープに手をつけた。スプーンでにんじんと体に良さそうなスープをバランスよく掬い、その色味を見る。美味そうだ。


「でもいつやるかが問題だよな。訓練で忙しいし」


「そこはほら…北村様のご威光で訓練時間減らしてもらってさ……」


「うーん。まあそうだな。頼んでみるか」


 王国としても、全体の戦力アップの為に、承諾してくれるはずだ。


 おれは空になった食器をまとめ、ご馳走様でしたと呟いた。


 ◇ ◇ ◇


 食事を終えると、おれ達は各々の訓練場に移動する。おれはいつも魔法訓練場からだ。


 交代した護衛の人達と、クラスメイトで賑やかな廊下を歩き、徳永と訓練場に向かう。石造りだからか、コツコツと足音が鳴った。


「なんか久々な気がするな」


「2日休んだからな」


「休みか。次はいつ取れることやら」


「まあ、週に1日は欲しいよな」

 さすがにそれぐらいはもらえるはずだ。後で確認しよう。


「それな」


 訓練場の軽い木製の扉を開けて、外に出た。


 訓練場は、天井が開いた中庭のような場所で、石の壁に囲われている。下は砂利で、壁に沿うように的が並んでいた。


「今日は魔法の応用に挑戦してみましょうか」

 クレア先生の言葉を通訳する。


「魔法は攻撃対象などの最低限の定義をすることで発動することができますが、他にも出現位置などの再定義をすることができます」


「このように」


 そう言うとクレア先生は、杖を生徒の方に向け、魔法を発動する。やはりすごい発動速度だ。


 杖を向けられた生徒達は驚き、立ち上がるが、魔法は杖の先からは出ず、先生の右横に出現し、先生の後ろの的に向かって飛んでいった。


「おお! すげえ」

 生徒達が小さな声でざわざわと、先生を称賛する。


 おれも驚いていた。

 自分の後ろに飛ばしたということは、出現位置、射出速度、対象、全てを定義し直したということだ。


 それをあの速さでやるとは……


「では、皆さんもやってみましょう」


 そして各自、練習の時間になった。


「まずは出現位置を弄ってみましょう。杖の先ではなく、自分の右横に出してみてください。対象を定義するのと同じように定義するだけです」


 通訳しつつ、おれも行なう。

 といっても、この程度はいつも部屋で自主練しているので簡単だ。


 水の球が、おれの右横に出て、的に飛んでいく。


 易々と成功したおれを見て、クレア先生が言った。


「おお。さすがですね」


「いえ。それほどでも」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る