第14話 会議長かった

 長い長い会議が終わり、その帰り道、付き人を連れた王女様と会った。


「魔族に襲われたそうですね」

 話しながら手で、王女様が合図する。

 おれへの合図。彼女が本物という証明である。


「ええ。なんとか助かりました」

 おれも小さく合図して返す。これで安心。


「怪我がなくて何よりです。それで、魔族はどうでした?」


「すごい強いですね。スキル持ちの守谷でやっと戦いになるか、といったところです。あと、人間に擬態していたようで」


「聞いています。恐らく魔族は人間に擬態することで結界をすり抜けたのでしょうね」

 概ね、会議と同じことを言う王女様。どこまで知っているのか。


「少し話しませんか?」

 王女様が横の部屋を指し、言った。


 付き人さんを外に待たせ、王女様と情報交換する。その中でこんな会話になった。


「城にいる人間は全員、契約書で『魔族に利することはしない』という契約を結んでいます」


「しかし私はこの契約には抜け道があると考えています。それが何か、分かりますか?」


「...どこまでが魔族に利する行動なのか、曖昧なところでしょうか」


「それもあります...が、もっと重大なこと。私はこの契約をすり抜け、魔族に利する者がいてもおかしくないと思うのです」


「それは...」

 その時、コンコンコンと部屋の扉がノックされた。


「どうしました?」


「至急報告したいことがあります」


「分かりました。すぐ行きます」

 王女様はおれに目配せすると言った。


「何でしょうね」


「分かりません...が、もしかしたら......」


 ◇ ◇ ◇


 それは意外なことにも、この世界に来て以来、初めて見るものだった。


「やはり......」

 先にそれを見た王女様が言う。


 周りには護衛がいつにも増して集まってきていて、物々しい。


「これは...」

 王女様の後ろから覗き込んだおれは絶句する。


 それは死体だった。


「恐らく、魔族の仕業です」

 王女様がおれの耳元で小さく言う。


 どうしてそう分かるんですか?

 そう聞きたいが、さすがに周りに聞かれそうだ。控えることにする。


 死体はやがて、どこか別の部屋に運ばれていった。



 その後、王女様と話す機会はなく、翌日になった。さすがにクラスメイト達にも、例のことが知れ渡っているようだった。


「北村はなにか聞いているか?」


「いや。何も」

 王女様から魔族の仕業かもしれないとは聞いたが、まだ根拠も聞いていないので言わない。


「そういえばお前、昨日どこ行ってたんだ?」

 徳永が聞いてきたので答える。


「会議に出てた」


「へえ。どんな内容だった?」


「守谷とおれが、準貴族に任命されるらしい」


「準貴族? すげえ」


「何か式典とかあるのか?」

 どうだろう? 所詮名ばかりの称号だし、ない気がする。


「ないんじゃないか? 多分、何か証がもらえるとか、そんなんだと思う」


「ふーん」


 ◇ ◇ ◇


 やがて、その日の訓練が終わり、ついに勉強の時間となる。


 今日の内容は、魔族について。

 やっと王女様と、昨日の話の続きができそうだ。


 そう思っていたのだが、しかしそれは変更されることとなった。


「昨日見つかった死体について」

 今日の内容はそれだった。


「すでにご存知かもしれませんが、昨日この城内で死体が見つかりました。我々はこれを魔族の仕業と見ています。なぜなら、最近街で起こっている殺人事件の死体と同じだからです」


 担当者の人が一息に言った。おれも一息に通訳した後、尋ねた。


「同じというのは?」


「死体に魔力が全く残っていないのです」


「普通はどうなんですか?」


「普通は死体の魔力は、時間とともに段々と抜けていきます」


「そうなんですか」



 ついにはその日、王女様と話す機会はなかった。


 そして、おれ達にも護衛がつくことになった。

 魔族を警戒してのことである。


 ありがたいことだが、ますます話しにくくなりそうだ。

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