第13話 ボーナス休暇
街で魔族に襲われた翌日。
北村達は魔族に会って大変だったでしょ? ということで、特別にもう1日休みをもらっていた。
こちらに気を遣ってもらった形だが、向こうとしても魔族に対する対応などを話し合いたいという理由があるのではないかと思う。
そしてその日、訓練場には、休みにも関わらず結構な人がいた。
「昨日の感覚を忘れたくなくてね……」
そう言う守谷と、
「ひとりじゃ訓練も捗らないだろ?」
という男子生徒が何人か。
さらにそんな守谷達に感化され、自主練に集まった生徒たち。
ここにもし、元の世界の担任の梅原先生がいたら、感動して涙を流していただろうと思われる。
まあ、彼女は職員室に忘れ物をして、そのせいで異世界に来損ねたのだが。
もちろん普通に休みを満喫する者もいる。
「昨日は大変だったんだから、しっかり休まないとね」
「小山さん。私達ほとんど何もしてない……」
そしてそんな中、北村は王国の対策会議に呼ばれていた。
◇ ◇ ◇
「魔族が街の中に入り込んでいるとは、由々しき事態である」
王様が、会議室に集まった貴族達を見回しながら言った。
「王様。その件について、実際に魔族と遭遇した、異世界人の北村を呼んでおります」
外交参謀のバイスが言った。
「うむ。では早速、昨日の状況について、説明してもらおうか」
王様がそう言うと、いよいよおれの出番だ。
「はい。私達は昨日、街を視察するために街に出かけておりました。その帰り道、魔族にいきなり襲われたのです。そして私達は護衛のドランさんと協力し、何とか魔族を撃退しました」
「ほう。素晴らしい」
「では、街にいた魔族を見事撃退したその手柄を讃え、魔族撃退に特に貢献した、北村と守谷の両名を準貴族に任命しようと思う」
事前に決められた通り、とんとん拍子に話が進む。
待ってください。それをやったのはほとんど騎士団長です。
北村としてはそう言いたいところだが、それについても事前に話があった。
あの時、騎士団長は任務帰り。そして、その途中で魔族と戦ったとなると、報告が面倒になる。だから、北村にそれを押し付けたのだ。
もちろんお偉方も、騎士団長がやったというのは把握しているのだが、この際、北村達を取り込む為に彼らの手柄にしてしまえと、そんな感じである。
それで、実際に魔族と渡り合った守谷と、魔族退治にはそこまで貢献していないが、今後も通訳としての仕事が期待される北村が、準貴族に任命される運びとなった。
断ることもできなくはなかったが、王様の印象を悪くしてまで断るメリット、断らないデメリットがあるかというとそこまででもなく、準貴族というのは、ほぼ名誉のみの称号のようなものであるので、ありがたく頂戴することにした。
「ありがたく拝命いたします」
「うむ。今後とも王国のために励んでくれ」
「では次に、魔族への対策について、話し合いたいと思います」
「まず魔族が街の中に入り込んでいる件についてですが、未だ原因は不明です」
「まさか奴ら、結界を破る力を身につけたのではあるまいな?」
知るかよ。担当者がそう答えたいのを我慢しつつ言った。
「わかりません。ただ、結界が今まで通り機能していることは確かです」
「そうか……」
ちなみに結界というのは、街を囲うように張り巡らされた魔法の壁で、魔族はそれを通ることができないらしい。
時間をかけて、集中攻撃されれば破られる可能性はあるが、その場合こちらもそれを感知できるはずであるらしい。すごい。
「となると、やはり門から潜入したか…」
「しかし、門から入ったとしても、魔族は押し出されるはずです」
結界は門の部分だけ少し弱くなっている。人が出入りするからだ。
要は、門の部分は人間だけが通り抜けることのできる薄い結界。門以外の部分は誰も通れない硬い結界。そんな感じである。
そして結界の中は常に魔族を外に吹き飛ばすフィールドになっているらしい。
「そういえば、異世界人達と魔族が遭遇した時、その姿はまるで人間と同じであったのだったか」
「はい。そうです」
「魔族が人間の姿に擬態し、街の中へ。さらに戦闘時も擬態した姿のまま。これは何か関係がありそうだな」
「ですな」
「では魔族が街に潜入し、人間に擬態していると仮定して、対策を立てていきたいと思います」
「うむ」
会議は続く……
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