第11話 本物の演劇
昼食を食べ終わったら、そこからは街で有名な楽団の演奏を聴きに行く。
劇場は少し小さかったが、雰囲気抜群の素晴らしいところだった。
中には絨毯が敷かれ、入った瞬間空気が変わるのが分かった。
薄暗い照明の中、席に座り、始まるのを待つ。
なんかこういうのって良い。始まる前のワクワクというか何というか。
その時、左隣に座っていた高田さんが言った。
「なんか、北村君が読んでくれたロミジュリを思い出すね」
右隣に座っていた徳永が笑いながら言った。
「ああ、ひとりでやってたやつか」
「ちょ、言い方」
「またやってもらう?」
冗談めかして、高田さんも言った。
「勘弁してくれ」
ははは、とおれ達は小さく笑った。
◇ ◇ ◇
演奏は素晴らしかった。
特に、おれの通訳が必要ないというのが素晴らしい。
音楽は国境を、そして世界の壁をも越えるのだ。一部の男子は寝ていたが、素晴らしい演奏だった。
そしてひとつ疑問に思ったことがある。
この国かなり余裕あるな、と。それが不思議だった。
ここまで余裕ぶっこいていていいのだろうか。
先生に聞いてみた。
「この国ってかなり余裕あるように見えますけど、今どういう状況なんですか?」
「あー。今は言うなれば、充電期間かな。お互いに」
「どういうことです?」
「この前の防衛戦で、ウチの騎士団長が魔族に大打撃を与えたんだ。だから魔族は今は力を貯めているし」
「ウチとしては攻め込みたい」
「しかし攻め込めば街の守りは疎かになってしまう。だから君達を呼んだのさ」
なるほど。魔族としては、与えられた傷を回復する充電期間。王国としては、魔族に更なる一撃を浴びせるための充電期間というわけか。
騎士団長って、強いんだな。
◇ ◇ ◇
その後、闘技場で剣闘士の試合を見た。
かなりレベルが高く、クラスの面々も驚いていた。
「すごい」
そしてその帰り道、事件は起こった。
◇ ◇ ◇
「楽しかったね」
「ああ」
「明日からまた頑張らないとな」
クラス全体で、そんなことを話しながら歩いていたその時。
カキンッ! という剣と剣がぶつかり合うような音。
突如としてその音が鳴り、辺りを見渡すと、そこには誰かと剣を交えている先生の姿が。
よく見ると相手は剣ではなく、腕。
北村にその知識はなかったが、その並々ならぬ雰囲気から直感した。
魔族だ。
魔族はその両腕を振るい、先生と互角、いや、それ以上に渡り合っていた。
何度か剣と拳が交わり、先生が後ろに吹き飛ばされる。
次に狙ったのはおれ達だった。
魔族の拳が迫る。
それを守谷が受け止めた。
そうか。彼にはスキルがある。これなら……
しかし、その期待に反して、彼も防戦一方のようだった。
そして、何らかのトリックを使ったのか、守谷の動きが急に鈍くなる。
危ない!
…使うしかないか。
おれは杖に魔力を込め、バリアの魔法を、守谷を守るように起動した。見かけ上は何もしてないので、周りの奴らには何もバレなかったと思う。
そのバリアは魔族の一撃を確かに防ぎ、虚空へ消えた。
そして、それを渡辺が驚いたように見ていた。
◇ ◇ ◇
渡辺視点
ある日、北村が休日を取ってきた。
おれ達はそれに乱舞狂気し、街へ出た。
最近、クラスの空気が良くなかったので、リフレッシュの場を作ってくれた北村には感謝である。
そしてその帰り道、魔族が襲ってきた。
まずはドラン先生が戦い、しかし、吹き飛ばされ、魔族はこちらに来た。
おれは護身用に待たされていた剣を構える。戦う? ドラン先生相手に勝った奴と?
そうして躊躇している間に、守谷が前に出て、戦ってくれた。
そうか。彼はスキル持ち……これなら…!
守谷が戦ってくれて、一安心する自分がいた。
そうじゃないだろ? クラスメイトひとりに、押し付けていい訳がない。
どうにか手を貸さなければ……
そう思った矢先、守谷と魔族の周りに、何か小さな虫の集まりのような、光の粒子が見え始めた。
なんだこれは?
その光が魔族の口に吸い込まれ、途端に守谷の動きが鈍くなった。
危ない‼︎
そう思った瞬間、右前にいた北村の杖に光の粒子が集まり、それが守屋の方へ向かってバリアになって、彼を守った。
なんだ……⁉︎ これは…?
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