第10話 わーい、休みだ

 契約を交わした翌日。

 おれは王国にある打診をしていた。


 それは───


「ほう。休日が欲しいと」


「はい。皆疲れとストレスが溜まっておりますので、それをリフレッシュする日が欲しいと思いまして」


 そう。おれはこの前のクラスメイトの喧嘩を見て、かなりストレスが溜まっているなぁ、と思った。

 だから、今回、休日を打診することにしたのだ。


「そうだな……確かにずっと訓練続きでは疲れるか。分かった。では明日は休日にして、街に行けるように手配しよう」


「ありがとうございます」


 おれはこれでクラスメイト達のストレスも少しはマシになるだろうと、そう思った。


 ◇ ◇ ◇

 バイス視点


 北村が去った後、外交参謀であるバイスはじっと考え込んだ。


 一体どこまで分かっているのだろうか、と。


 今回北村は、契約書を吟味する際のクラスメイトの喧嘩を見て、休日を打診したわけだが、実はそのタイミングはとても秀逸であった。


 なぜなら、休日は異世界人達に、色々と考える時間を与えてしまうからだ。


 一度休むと、訓練が嫌になったり、元の世界に帰りたくなったり。


 そうした感情が生まれぬとも限らない。


 だからこそ、契約という、協力の確証が得られる前なら、王国側もこれほど容易く休日の許可は出さなかっただろう。


 しかし、今回、北村は契約を交わした翌日という絶好のタイミングでその話を持ってきた。


 果たして彼はどこまで分かっているのか。


 ともすれば、こちらの心理を正確に見抜いているかもしれないその底知れなさに、バイスは恐ろしいとも心強いとも思うのであった。


 ◇ ◇ ◇

 北村視点


 休日。

 将来守る街の視察も兼ねて、全員で街に行くことになった。


 果たしてこれは休日と言えるのだろうか。


 しかし城の中で休むよりはリフレッシュになるか。…わざわざ視察という名目を作ってまで、街に出してくれたバイスさんには感謝だな。


 そんなこんなで、クラスメイト全員で、小学生の遠足のようにゾロゾロと街を歩く。

 だって言葉が分かるのおれだけだもの。仕方ないよね。


「ねぇ、北村君。こっちお願い」

「はいはい」


「北村くーん。こっちも」

「はいはい」


 あっちこっち呼ばれ、通訳をする。今は街の露店を見ていた。伝統工芸品って感じのものが色々売っていて面白い。


「北村君、これどうかな?」

 高田さんが、髪飾りをつけて、おれに聞いてきた。かわいい。


「良いと思うよ」


「そう? じゃあ、買おうかな…」

 今回、お金は王国持ちだ。よっぽど高くない限り買ってくれるらしい。

 もちろん、だからといって、買いすぎはいけないが。


「ドランさん。これ買います」

 おれは引率の先生、ドラン先生に話しかけた。


「はいはい」

 ドラン先生がお金を出し、購入してくれたそれを、高田さんに手渡した。


「はい」


「ありがとう!」

 高田さんはにっこり笑い、お礼を言った。

 かわいい。


 ◇ ◇ ◇


 次は定番。冒険者ギルドに来た。やっぱ異世界来たらここは外せないよな。


 しかしこの世界のギルドは少し違うようだった。


「え? モンスターは倒さないんですか?」


「ああ。そもそもモンスターがいないしな」


 そう。この世界には魔族はいても、スライムとかオークみたいな魔物はいないのである。


 ではこのギルドは何をやっているのかというと、主に雑用やバイトの斡旋、後は街から街へ移動する際の護衛の依頼。


「ちなみにおれはSランクだ」

 先生は実力もあるし、国所属の兵士ということで信頼も高い。だから、Sランクということらしい。


 なんだか夢がないギルドだな。そう思った。


 ◇ ◇ ◇


 そんなギルドで、今日の昼食をいただく。


 ここのギルドの名物、分厚いステーキだ。熱々の鉄板の上に乗って、ジュウジュウと音を立てている。


 肉汁が滴り、香ばしい香りが辺りを包んだ。


 ナイフを入れると、スッと刃が通り、肉の重厚感が伝わってくる。焼き加減はミディアムレアぐらいか。


 それに赤ワインのソースをつけて食べると、口の中に肉の旨みとソースの風味が広がる。


 最高に美味かった。

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