第9話 それは詭弁だ
今回の契約に、『これまでの話が王国側の嘘であったことが発覚した場合、異世界人側は契約を破棄することができる。』というような一文を加えてもらう。
しかしそれは、王国側を信頼していないと言うようなものだ。
どう提言したものか。
北村達は考えていた。
「そもそもそれを加えてもらわないというのもありじゃないか?」
徳永のその言葉に、佐藤がムッとする。
「いや、佐藤の言うことはもっともだと思う。追加しないという手はない」
しかし北村がそう言うと、佐藤は嬉しそうにうんうんと頷く。
「しかしな…」
徳永が反論しようとしたところを、クラスの女子が横入りする。
「私も、追加してもらうべきだと思うな。悪人に加担するなんてことになったら嫌だし」
それに他の女子達が「私もそう思う」などと同調する。
かと思えば、
「そうは言っても、今の生活を守る方が大事だろ」などと、徳永に同調する男子も出てきた。
これはマズイな。
北村がそう思い始めた時には、事態は手遅れだった。
「何よ! あんた達文句ばっかり言って」
「それはそっちの方だろ!」
これまでの不平不満が、爆発するように口喧嘩に発展し、困ったことになった。
このままではマズイ。
解決するためには、最善の策を打ち出すしかない。そう感じた北村はこう言った。
「みんな聞いてくれ。王国側が悪なのか、そうじゃないのか。それは分からないことだ。今回の提案をしたことで、王国側の信頼を失うことになるのが怖いというのも分かる」
「だがどうだ? 今回の件で王国側が、おれ達に信用されていないと感じたとして、それでどうなる?」
「おれ達を消す? 街に放り出す? 怒って契約をやめる? ……それで王国にどんなメリットがある?」
「そう。王国にメリットはないんだ。強いて言えば、権威が守られるぐらいか。しかしそんなこと言ってられるような状況じゃないのは分かるだろ?」
「何せ、王国側としては、戦力が欲しくて、わざわざコストをかけておれ達を召喚したんだから」
「だから今回は、契約の追加を提案しよう」
「どうだ? それで納得してくれないか」
「……」
誰も何も言わない。
その時、徳永がゆっくりと言った。
「……おれも、北村の言うことはもっともだと思う。追加しよう」
徳永がそう言ったことで、場は追加を提案するムードになり、その場は収まった。
◇ ◇ ◇
北村視点
「助かったよ、徳永」
その後おれは、徳永にお礼を言った。あの場はコイツのおかげで収まったようなものだ。
「いや。おれもあれはマズイと思っていた。むしろよく収めたと言いたいぐらいだ」
徳永がありがたいことを言ってくれる。そして彼は続けて言った。
「しかし、分かってるだろ? お前のは詭弁だ。もし、王国が初めから悪側だったら? おれ達が利用できないと考え、消されることも考えられる」
やっぱり気づいていたか。
場合によっては、高田さんのスキルを話すことになるかもしれない。そう思いつつ、おれは言った。
「だからといって、悪に加担しても良いことはない。そうだろ?」
「……まあ、な」
「問題は何人が詭弁だと気づくかだ」
「場合によっては、もっと酷い喧嘩になる」
◇ ◇ ◇
北村のその心配とは裏腹に、誰も詭弁だとは言い出さなかった。
誰も気づかなかったのか、もしくは、言えばまた喧嘩になると分かっているから誰も言い出さないのか。
それは分からないが、王国との交渉は無事終わった。
高田さんのスキルで分かっていたことだが、王国側はこちらを騙す気はないようだ。
そんな人達に、今回のような一文を足してもらうのは少し申し訳ないな。
そんなことを思った。
しかし無事に契約を追加できた。さらに王国側も特に怒っていない。それで今回の件は一件落着である。
良かった良かった。
そう、一安心するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます