第5話 おれも戦えるスキル欲しい

 それからの時間は地獄だった。おれが1人で「ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」的なことを朗読するのだから、当たり前だ。


 徳永はケラケラ笑っていた。


 おれは後でこいつを処すことを決め、無感情を装いつつ、異世界版ロミジュリを朗読した。


 そしてこれからは、授業前に内容を打ち合わせすることも決めた。


「王女様。困りますよ」

 授業終わり、王女様に不満を言う。


「何がですか? 私も言葉こそ分かりませんが、面白……良い朗読だったと思いますよ」


「今面白いって言いかけましたよね?」


 意外とお茶目だなこいつ……


「申し訳ありません。実はあなたと話す口実が欲しかったのです」


「…それで誤魔化せるとでも?」


「いえ、本当のことです。……実はこの城に、魔族が入り込んでいる可能性がありまして」


「魔族が?」


「そうです。ですから気をつけてください。人に化けている可能性が高いです」


「それならそうと、普通に言ってくれれば……」


「自然に話す、そのための口実が欲しかったのです。ほら、メイドの目も離れているでしょ?」


 確かに、王女様御付きのメイドはこちらから目を離し、今は授業の片付けを行なっていた。


「……彼女も疑っているのか?」


「疑っているのは確かですが…まあ、色々あるんですよ」


「……そうですか」


「その点あなたは、魔族である可能性は限りなく低い。だから……私の協力者になってくれませんか?」


「協力者ですか。具体的に何を?」


「魔法探しです」


「実は今、ある魔法を探しているのですが、その定義探しが難航してまして」


「それを手伝って欲しいと」


「はい。ひとりじゃ大変でして」


「……」

 どうしようかな。

 王女様をどこまで信頼するか……

 あっ。


「ちなみに、王様は魔族の件、ご存じなのですか?」


「いえ。話はしましたが信じて下さらず」


「なるほど…」

 王様が信じていないとなると、王女様をどこまで信用していいのか……そもそも彼女の勘違いという可能性もあるし……

 こっそり協力していたことがバレたら角が立つかもしれない。


「申し訳ありませんが……」


「そうですか。残念です。では、情報交換だけでもどうでしょう? 授業終わりに話すだけで結構ですので」

 ちっとも残念じゃなさそうに彼女は言った。


「……まあ、それなら」

 これ以上断るのも、それはそれで角が立つと思い、了承した。

 まあ、魔族に関する情報を共有するだけなら何ら問題はない。

 彼女も最初からここへ話を持ってくるつもりだったのかもな。


 そんなことを思いながら、おれは部屋に帰り、いくつかの魔法の練習と魔法探しをして、就寝した。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。朝食会場に行くと、クラスメイトがざわついていた。まさか魔族か?


「どうしたんだ?」

 おれが尋ねると、渡辺が言った。


「守谷に先を越された」


 どういうこと?


 という顔をしているのが分かったのだろう。近くにいた今村が補足してくれる。


「守谷がスキルを発現したんだ」


「へぇ。どんなスキル?」


「剣術系らしい。何でも、守りがすごい上手くなるとか」


「へぇ」

 いいな。戦闘系のスキルはやはり、夢がある。


「王国にはもう報告した?」


「いや、まだ。お前がいなきゃ、できないだろ?」


「そりゃそうだ」

 うっかりしてた。


 周りでもみんなが、スキルについて話している。

「おれ、二刀流みたいなスキルがいいな」


「あー、それいいな。おれはな……」


 それを見て、徳永が言った。

「呑気なもんだな」


「そうか? スキルって夢があると思うが」


「戦いに近づくことになる」


「専守防衛だろ? それに、おれは言葉がわかるだけだから、戦闘系のスキル持ちが羨ましいよ」


「そうか」


「よし。皆もスキル取得目指して頑張ろう!」

 高田さんが女子組にそう言っていたのが印象的だった。


 ◇ ◇ ◇


「そろそろ契約を結ぶ頃合いかもしれんな」


 守谷がスキルを得たことを報告に行ったところ、外交参謀のバイスがそう呟いた。偉い偉いとは思っていたが、彼はこの国では2, 3番目ぐらいの地位にいるらしい。


 周辺諸国が滅び、外交の仕事がなくなったので、異世界人の相手も外交でしょ? ということで、おれ達の対応をしてくれているのだ。


「契約ですか」

 そういえばそういうのあったな、と北村は思う。


「ああ。そうだ。それについて今夜話そうと思う。クラスメイト達に伝えておいてくれ」


「分かりました」


 ◇ ◇ ◇


「ついにか」

 契約書の話を聞いた徳永が言った。


「契約書って何だっけ?」

 高田さんが聞いてきたので答える。


「5年街を守れば、元の世界に帰してくれるという保証のための契約」


「あー、そういえばあったな。そういうの」

 クラスメイトの渡辺が言った。


「それでその話を今日の夜するって?」

 徳永が話を戻すように言った。


「ああ。そうらしい」


「なるほど…」


「だから、どういう契約になるかとか、こちら側はどういう要求をするかとか、整理しとこうぜ」


「了解」


 ◇ ◇ ◇


「まず大事なのが、契約は絶対破れないということだな。それを確認しないことには何もできない」


「そうだな。どう確認する?」


「契約書をもらって、色々試してみるのがいいかもな」


 その時、徳永が言った。

「……そもそも契約を結ぶ必要あるのか?」


「5年経っても帰さないと言われたら、反乱を起こせば良い。それだけじゃないか?」


 随分過激だな。

 そう思ったがしかし、渡辺などもそれに同調した。

「確かに」


「それなら、わざわざ契約書を書くなんてリスクを冒さずに、普通に協力した方がいいかもしれない」


「確かに」


 話がどんどん進んでいっているので、止める。

「反乱を起こすなんて簡単に言うが、向こうに勝てるか分からないだろ? 死傷者が出るかもしれない。それなら、契約を結んでおいた方が良いと思うが」


「だが、契約というのも怖い。そうだろ? 勝手に書き換えられたり、不利な契約を結ばされるかもしれないじゃないか?」


 心配はごもっとも。

 おれは前々から考えていたことを話した。






 ───────────────

 ちょい足し 王女様との会話


「では情報のやり取りの仕方を決めましょうか」


「ここで話すだけではダメなのですか?」


「誰の目があるとも、分かりませんから」


「それに、こういうのって何かカッコいいじゃないですか」


「分かる」


「では……」







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