第4話 魔法探しの時間
これはすごいことができるかもしれない。
それが、その本を読んだ最初の感想だった。
その本に書かれていたのは、魔法の見つけ方。この世界の魔法は、どうやら既に作られたライブラリのようなものが存在し、そこにアクセスする形で発動しているようなのだ。
つまり、最初にこの魔法を使うとイメージするのは、ライブラリに今からこの魔法を使いますと宣言しているということで、色々定義しなければならないのは、ライブラリでそう決まっているからなのだ。
今まで、魔法は王国側から習うしかなかった。しかしこれがあれば、自分で魔法を探すことができる。
部屋に帰って、早速取り組むことにした。明日は寝不足だろうな。
ちなみに、おれは杖と魔法を受け止めるクッションを2日前から借り受けている。
通訳で忙しく、余り練習できなかったおれのために、王女様が貸してくれたのだ。
これは、杖とクッションのセットの道具で、その杖から放った魔法は必ずクッションに飛んでいく、というかなりレアなものだ。
代わりに、威力とコスパはかなり落ちるが、これがあれば部屋でも安全に練習できる。
こんな凄いものを貸してくれた王女様には感謝しかない。
部屋に帰って、杖に魔力を込める。
試すのは、バリアの魔法。『魔法教本⑴』にも載っていなかった魔法だ。車輪の再発明になるかもしれなかったが、それでも良かった。
教えられていないこと、知るはずのないこと。それを使えることが、今後の戦いに役立つはずだ。
とりあえず、丸いバリアの半径と、バリアの厚さと、出現位置を定義してみる。
杖の先に丸盾が出るようなイメージだが、何も出ない。
何が足りない? もしくは多すぎる?
とりあえず厚さを外してみるも、何も出ない。
魔力を多めに注いでみる。
何も起きない。
…いや、今魔力が減ったな。かなり減った。
でもまだ残ってるから、足りてないわけじゃないはず。
もう1回考えてみよう。
例えば、火炎玉の魔法。あれは対象と、速度と球の大きさ、具体的な温度を定義した。
今回足りてないのは?
バリアの硬さか?
硬さってどう定義したらいい?
そもそもバリアって何だろう?
物理攻撃は? 弾く。
魔法攻撃は? 弾く。
つまり、盾みたいなものだ。
盾の硬さをイメージし、定義してみる。
お! 今一瞬、何か見えたぞ?
ただ一瞬だな。どうしてだろう。
一瞬。一瞬か…
そうか。持続時間を定義してない!
持続時間を定義してないから、一瞬しか出なかったのでは?
つまり、持続時間を10秒に定義して……
やった!
出た!
しかし、それは3秒ほどで消えてしまった。
あれ?
◇ ◇ ◇
翌朝。おれは目覚ましの音で目を覚ました。
昨日は結局、持続時間が安定しなかった。
なんでだろう。
考えながら、顔を洗い、支度をしていると、思いついた。
「もしかして、ただ単に魔力が足りてなかっただけなのでは?」
その閃きに急いで、魔力を込めることを意識して試してみると、バリアは10秒持った。
「なんだ。そんなことだったのか……」
やっぱり、睡眠って大事だな。
おれは心からそれを実感するのだった。
バリアの魔法が上手くいき、おれは上機嫌で朝食の場に顔を出した。
「おはよう!」
「おはよう、北村。今朝は元気だな」
徳永の驚きはもっともであった。
北村はいつも、朝は眠そうなのだ。
「今日は何か目覚めが良くてな」
おれはそう嘘をつく。いや、嘘ではない。
実際、良い考えが浮かんだのだから、目覚めは良いといえるだろう。
「そうか。羨ましいな。おれは昨日はあんまり」
そう言って、徳永は欠伸する。
それを見て、おれはバレていないようだ、と思う。
どうしておれがバリアの魔法を隠すのか。
それには色々理由があった。
まず一つに、王国側に不審を抱かせないため。おれが独自に魔法を探しているとなったら、王国側は余り良い顔をしないだろう。もしかしたら杖を没収されるかもしれない。
次に、王国側と戦いになった時に備えて。そういう時のために、手札は多い方がいい。
最後に、独占欲。せっかく自分が頑張って見つけたのだから、他の人には教えたくない。
正直この理由が最も大きかった。
この魔法が既に王国の既知の魔法なのか、そうじゃないのか、それを知る由は北村にはないが、どちらにせよ隠しておくつもりである。
これから夜は魔法探しの時間にしよう。
おれは様々な魔法を使えるようになった自分を想像して、いっそう愉快な気持ちになるのであった。
◇ ◇ ◇
その日の魔法訓練では、昨日の練習の成果か、調子が良く、褒められた。
おれは上機嫌で講義室に向かう。
今日も既に王女様は来ていた。
「どうも、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
おれが景気良く挨拶すると、王女様も気品よく返してきた。
ですわ、とか言わないんだな。どちらかというと、できるお姉さんといった感じだ。
今日の講義は、この世界の常識的な教養についてである。
「皆さんの世界で有名な演劇には、次のようなものがあると聞きました」
そう言うと王女様は、
「おお。ロミオ。あなたはどうしてロミオなの?」
そう熱演した。
「私達の世界にも似たような演劇があります。つまり、演劇の世界は、どこも似たようなものということですね」
「ちなみに近年の演劇は徐々に説明過多、演技が過剰になってきているという意見もあるそうです」
「まあ、何はともあれ観劇は常識」
「ですので、皆さんには、来たる潜入生活に向けて、今日は演劇を観てもらいたいと思います」
「と、言いたいところですが、観に行く時間がないので……」
「はい」
そう言っておれに手渡されたのは、異世界版ロミジュリの台本。
は?
「朗読したいと思います」
地獄の時間が始まった。
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