第3話 掘り出し物を見つけた

 翌朝。また訓練、通訳の日々が始まる。


 おれが欠伸をしながら朝食を食べていると、笹森が話しかけてきた。


「北村君。ちょっといいか?」


「どうした?」


「今日の訓練終わり、図書室に付き合ってくれないか?」


「図書室?」


「ああ。この世界のこととか、勉強しようと思ってな。ほら、王女様が言ってただろ?」


「あー。言ってた言ってた」

 授業の合間にちょろっと言ってただけなのに、よく聞いてるな。


「だから翻訳しに来て欲しいんだ」


「うーん。……まあいいよ」

「サンキュ」


 ◇ ◇ ◇


 訓練と授業を終え、夕食を食べて、笹森と図書室で合流する。昼に話したことで、徳永も着いてきていた。


「何の本を読む?」


「……この世界について書いた本とかがいいな」

 随分と漠然としている。

 まあ、歴史本とか図鑑とかそんな感じかな。


「おれは魔法に関する本が読みたい」

 徳永が言った。


 魔法か。おれも興味ある。


「『魔族の襲来〜それに伴う世界情勢〜』これなんてどうだ?」


「悪くない」


「お。これもいいかも。『魔法発見学入門』」


「もっと実践的な魔法が覚えられそうな本はないのか?」


「そういうのはなさそうだな。あ、いや。ひとつあった。魔法教本⑴」


 この⑴が良い感じに堅苦しく、胡散臭い。

 ⑵すらないし。


「…そうか」


 端の机で、『魔族の襲来〜それに伴う世界情勢〜』を開く。


(一部抜粋)

『魔族の襲来によって、世界は大きく変わりました。まずこの国の貴族制度。もともと、この世界の貴族制度は、王国成立当初から各地を治めるために設けられた階層でした。貴族は血統や家柄を重んじ、土地と民を管理する責任を持ち、政治や経済、軍事に関する権限を委ねられていました。


 しかし、魔族の侵略によって周囲の国々が滅び、王国が存亡の危機に瀕すると、貴族制度に大きな変化が訪れます。当時の王が、「貴族」を再編。結界の貼られた10の街を治める「市長」として、再配置したのです。市長となった貴族たちは、以前のような広い領土を持つのではなく、都市内部とその周辺の防衛に集中することを余儀なくされました。


 この再編は急場をしのぐためのものでしたが、結果的に成功し、魔族の侵攻を食い止めることに成功しました。貴族たちが持っていた軍事力と政治的な経験が都市防衛の要となり、王国は安定期を迎えることとなります。


 また、この時期から、貴族の地位は再定義され、魔族に対抗するための実績が問われるようになりました。単なる血統ではなく、実際に都市や王国を守るために貢献した貴族が重視されるようになり、そのため「準貴族」として、新たに功績を上げた者たちが認められるようになったのです。こうして、貴族制度は実力主義的な要素を取り入れたものへと変化していきました』


 ……思ったより末期だった件。

 この国以外滅びたって結構やばいのでは?


 こりゃ異世界人召喚したくなる気持ちもわかるわ。


 ◇ ◇ ◇


 長い歴史書を読み終わって。


「よし。じゃあ、次はこれを読んでくれ」

 徳永が言った。

 彼は『魔法教本(1)』を差し出してくる。


「魔法発見学の方は?」


「それはいい」


「そうか」

 どうやら徳永は興味ないらしい。いや、残り時間もわずかだ。取捨選択した結果だろうな。

 まあ、異論はない。

 でも発見学も後で読もう。

 おれはそう思った。


 ◇ ◇ ◇


 魔法教本には、魔法の基本的な使い方と、基本的な魔法の一覧。そして、いくつかの発展魔法。その使用方法が載っていた。


「何これ……定義すること、多すぎだろ」

 発展魔法を見て、徳永が言った。同感である。必要定義が10個や多いものだと20個にもなるのだから。その間に魔力が尽きちゃうよって話である。


「こりゃ、まだ僕らには早いね」


「まあ、いくつかの基本魔法が知れただけでも収穫だな」


「そろそろ帰るか。寝る時間なくなっちまう」


「もうこんな時間か。北村君。今日はありがとう」


「いやいや。おれも勉強になった」


 おれは続けて言った。

「おれはこの本読んでいくから、先帰ってていいぜ?」

 

「そうか。明日寝不足にならないようにな」


「ああ」


 ◇ ◇ ◇

 おれは2人を見送った後、『魔法発見学』の本を開いた。


 そして、瞬間的に目を見開いた。


「これは……!」

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