第2話 魔法の適性ありでした
翌朝。朝食を食べた後、適性検査をするために、訓練場に集まった。
クラスメイト達が順番に剣を振り、魔法の杖に触れ、適正を見ていく。出席番号順に綺麗な列を作っており、北村は健康診断を思い出した。
「適性あり」
「適性なし」
「次」
しかしこちらの検査は体重を測るのよりすぐだ。剣を一振りするだけ。そんなすぐ分かるのかな、というぐらい適当だ。それで結果が出てくる。
北村もへっぴり腰で思っていたよりも重かった剣を一振りだけ振った。ちらりと検査員の顔を見たが、その顔はピクリとも動かなかった。
恐らく、王国としてはスキルを見つけるために、色んなことを経験させるつもりでいるから、こんなにも適当なのだろう。
もしくは適性検査というのも建前で、おれたちを都合よく分けるためのカモフラージュかもしれない。
何せステータスプレートとかがあるわけじゃないのだ。
徳永ならきっとそう言うだろうが、それならそれで、おれたちを何の基準で分ける? という問題が残る。向こうはおれたちのこと、何も知らないのだから。
まあ、どうでもいいことだ。
ちなみにおれは、魔法には適性ありとなったが、通訳なのであまり関係なかったりする。
そんなこんなで、おれ達は適性に応じて、魔法訓練と、武術訓練の二手に分かれることになり、おれはまず、魔法訓練の通訳をすることになった。
身体を動かすような訓練は通訳なしでも何とかなるが、魔法はそうもいかない。
それにおれにも魔法の適性があったので、そうなった。
「もっとイメージをして」
魔法指南役の先生、クレアさんの言葉を通訳しつつ、自分も勉強する。
なるほど。この世界の魔法は詠唱とかないんだな。
「なあ、気づいたか」
通訳の仕事が一息ついた隙に、徳永が話しかけてくる。
「何に?」
「この訓練場、使われた形跡がない」
そう言われて、北村は辺りを見渡す。
確かにそうだった。
壁にも床にも、ほとんど傷はなく、初めて来た時綺麗なところだと思ったが、それはおかしかったのだ。
「ほんとだ」
「どういうことだと思う?」
「…どういうことなんだ?」
少し考えたがわからなかったので、徳永の考えを尋ねることにした。
「わからない」
徳永の答えに、北村はずっこけた。
しかし徳永は真面目に言った。
「お前も、わからないか?」
「ああ。全く。単に最近リフォームしたとかじゃない? それか、魔法の力とか」
「さっきの質問の答え、覚えてるだろ? 魔法はない」
そういえばさっき、魔法について質問していたな。建物にかける魔法があるのかについて、だったか。
「確かにそうだ」
「だから…」
「何だよ?」
急に黙り込んだ徳永に尋ねると、その瞬間北村は後ろから話しかけられた。
「北村さん。通訳をお願いします」
クレアさんだ。
びっくりする表情を抑え、返事をする。
「あ、はい」
徳永との話はお預けだった。
◇ ◇ ◇
その後、昼飯をささっと食べ、今度は剣の訓練に向かう。
昼飯中も常にクレア先生の目があったので、結局徳永とは続きを話していない。
まあ緊急なら向こうも無理矢理にでも話してくるだろう。そう思っていたので、北村はそこまで深刻には捉えていなかった。
武術訓練場。ここも綺麗といえば、綺麗だが、少しばかり傷がある。
午前中についた傷か、それとも前からか。
やっぱり、あっちが綺麗だったのはリフォームしたからか。
答えは出ない。
武術指南役の先生、ドランさんと話をする。
「来てくれてありがとう。午前中はジェスチャーで何とか頑張っていたから、助かるよ」
「いえ、こちらこそ。お世話になります」
「じゃあ早速だけど」
「はい」
「では、午後からは早速剣を振りたいと思う」
先生の言葉を通訳する。ついでにおれも訓練に、参加できるところは参加した。
それからいくつか指導を受け、鍛錬は終わった。
「これで鍛錬は終わりだ」
「ありがとうございました」
鍛錬が終わり、お疲れ様ですとドランさんに挨拶をして、部屋で着替え、座学の教室に向かう。
既に結構人が集まっていた。
この部屋も綺麗だ。
が、王城ならこんなもんかなと思う。
中に入って待っていると、女の付き人さんという感じの人と、ドレスを着た女の人が入ってきた。
「どうも。私、この度講師役になった、セリナ=ドレアスと申します」
「あ、どうも。通訳の北村です」
北村は呆気に取られつつも何とかそう返事をする。
もしかしなくても、彼女は王女様だ。
おれ達と同年代か、少し上ぐらいに見える。
付き人の人は、端に立ったままだ。
「全員揃っていますか?」
「そうですね……全員いると思います」
「わかりました。では、講義を始めたいと思います」
おれは通訳する。
「まずは自己紹介から。私の名前は、セリナ=ドレアスです。一応この国の王女ですが、気にせず、仲良くして頂けると幸いです」
そう言うと彼女は、さすが王女様と言わんばかりの優雅な礼をした。
それからの講義はてんてこ舞いだった。
王女という肩書きに皆騒然とし、少しの間ざわついた。
しかし講義は進み、今日のところはこの国の通貨についてと、物価や物の相場について知ることができた。
講義が終わり、近況報告みたいな世間話をする。
決して望んだわけじゃない。向こうが話しかけてきたのだ。
「そうなんですか。魔法を……」
「ええ。今日の午前中練習させていただきました」
「そうなんですね。実は私も…得意です」
ドヤ顔で王女様は言う。
「そうなんですか」
「はい。もうどの魔法もバッチリですよ。何かわからないことがあったら、是非私にもお尋ねください」
「姫様、そろそろ」
「あ、はい。……ではこれで失礼いたします」
王女様はそうやって優雅に去っていった。
王女様から解放され、部屋に帰って、おれは魔法の自習をする。
本来なら明日のためにも、しっかり身体を休めるべきだが、自習する。
なぜって?
だって魔法だぜ? 使いたいじゃん。
それに、通訳のせいで、あまり練習できなかったしな。
魔法は以下の手順で発動する。
①使いたい魔法をイメージしながら、杖の先に魔力を集める。
②魔法に必要な情報(対象、速度、方向など)を定義する。
③発動命令
1番難しいのは②の情報定義で、クラスメイトの大体の失敗例がこれだった。
例えば、対象の定義し忘れで魔法が発動しなかったり、定義していても曖昧だったりである。
厄介なところが、何の定義不足で失敗したか、傍目からはわからないこと。
失敗したら、ただただ発動しないだけなのだ。
運が良ければ、魔法がその場に漂ったりして、「あ、これは対象忘れですね。」などと分かるのだが、そんなことは滅多にない。
そんなこんなでみんな苦戦していた。
おれは借りてきた杖を構え、魔法をイメージする。
そして発動…しない。
「あれ?」
杖に残った魔力量を見たところ、かなり少ない。
……確か徳永が似たような失敗をしていたはず。
魔力不足だったか。確かこの事例はその可能性が高いと、先生が言っていたはずだ。
杖に込めた魔力は自然と蒸散、つまり抜けていく。だから、素早く定義をしなくてはならないのだが、なかなか難しい。
遅ければこうなる。
そのため、今度は魔力を多めに込めながら発動した。
発動成功。
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