第2話 魔法の適性ありでした

 翌朝。朝食を食べた後、適性検査をするために、訓練場に集まった。


 ひとりひとり、剣を振り、魔法の杖に触れ、適正を見ていく。


「適性あり」

「適性なし」

「次」


 そんなすぐ分かるのかな、というぐらい適当だ。

 恐らく、王国としてはスキルを見つけるため、色んなことを経験させるつもりでいるため、あまり関係がないのだろう。


 もしくは適性検査というのも建前で、おれたちを都合よく分けるためのカモフラージュかもしれない。


 何せステータスプレートとかがあるわけじゃないのだ。


 きっと徳永ならそう言うだろうが、それならそれで、おれたちを何の基準で分ける? という問題が残る。向こうはおれたちのこと、何も知らないのだから。


 まあ、どうでもいいことだ。


 ちなみにおれは、魔法には適性ありとなったが、通訳なのであまり関係なかったりする。


 そんなこんなで、おれ達は適性に応じて、二手に分かれることになり、おれはまず、魔法訓練の通訳をすることになった。

 身体を動かすような訓練は通訳なしでも何とかなるが、魔法はそうもいかない。


 それにおれにも魔法の適性があったので、そうなった。


「もっとイメージをして」

 通訳しつつ、自分も勉強する。


 なるほど。魔法は詠唱とかないんだな。


「なあ、気づいたか」

 通訳の仕事が一息ついた隙に、徳永が話しかけてくる。


「何に?」


「この訓練場、使われた形跡がない」

 そう言われて、北村は辺りを見渡す。


 確かにそうだった。

 壁にも床にも、ほとんど傷はなく、初めて来た時綺麗なところだと思ったが、それはおかしかったのだ。


「ほんとだ」


「どういうことだと思う?」


「…どういうことなんだ?」

 少し考えたがわからなかったので、徳永の考えを尋ねることにした。


「わからない」


 徳永の答えに、北村はずっこけた。

 しかし徳永は真面目に言った。


「お前も、わからないか?」


「ああ。全く。単に最近リフォームしたとかじゃない? それか、魔法の力とか」


「さっきの質問の答え、覚えてるだろ? 魔法はない」


 そういえばさっき、魔法について質問していたな。建物にかける魔法があるのかについて、だったか。


「確かにそうだ」


「だから…」


「何だよ?」

 急に黙り込んだ徳永に尋ねると、その瞬間北村は後ろから話しかけられた。


「北村さん。通訳をお願いします」

 先生だ。

 びっくりする表情を抑え、返事をする。


「あ、はい」

 徳永との話はお預けだった。


 ◇ ◇ ◇


 昼飯をささっと食べ、今度は剣の訓練に向かう。

 昼飯中も常に先生の目があったので、結局徳永とは続きを話していない。


 まあ緊急なら向こうも無理矢理にでも話してくるだろう。そう思っていたので、北村はそこまで深刻には捉えていなかった。


 武術訓練場。ここも綺麗といえば、綺麗だが、少しばかり傷がある。

 午前中についた傷か、それとも前からか。


 やっぱり、あっちが綺麗だったのはリフォームしたからか。


 答えは出ない。


 指南役の先生と話をする。


「来てくれてありがとう。午前中はジェスチャーで何とか頑張っていたから、助かるよ」


「いえ、こちらこそ。お世話になります」


「じゃあ早速だけど」


「はい」


「では、午後からは早速剣を降りたいと思う」

 先生の言葉を通訳する。ついでにおれも訓練に、参加できるところは参加した。


 それからいくつか指導し、鍛錬は終わった。


「これで鍛錬は終わりだ」


「ありがとうございました」


 鍛錬が終わり、お疲れ様ですと先生に挨拶をして、部屋で着替え、座学の教室に向かう。


 既に結構人が集まっていた。

 この部屋も綺麗だ。

 が、王城ならこんなもんかなと思う。


 中に入って待っていると、女の付き人さんという感じの人と、ドレスを着た女の人が入ってきた。


「どうも。私、この度講師役になった、セリナ=ドレアスと申します」


「あ、どうも。通訳の北村です」

 北村は呆気に取られつつも何とかそう返事をする。


 もしかしなくても、彼女は王女様だ。

 おれ達と同年代か、少し上ぐらいに見える。


 付き人の人は、端に立ったままだ。


「全員揃っていますか?」


「そうですね……全員いると思います」


「わかりました。では、講義を始めたいと思います」

 おれは通訳する。


「まずは自己紹介から。私の名前は、セリナ=ドレアスです。一応この国の王女ですが、気にせず、仲良くして頂けると幸いです」


 そう言うと彼女は、さすが王女様と言わんばかりの優雅な礼をした。


 ◇ ◇ ◇


 それからの講義はてんてこ舞いだった。


 王女という肩書きに皆騒然とし、少しの間ざわついた。


 しかし講義は進み、今日のところはこの国の通貨についてと、物価や物の相場について知ることができた。


 講義が終わり、近況報告みたいな世間話をする。

 決して望んだわけじゃない。向こうが話しかけてきたのだ。


「そうなんですか。魔法を……」


「ええ。今日の午前中練習させていただきました」


「そうなんですね。実は私も…得意です」

 ドヤ顔で王女様は言う。


「そうなんですか」


「はい。もうどの魔法もバッチリですよ。何かわからないことがあったら、是非私にもお尋ねください」


「姫様、そろそろ」


「あ、はい。……ではこれで失礼いたします」


 王女様はそうやって優雅に去っていった。


 ◇ ◇ ◇


 王女様から解放され、部屋に帰って、おれは魔法の自習をする。

 本来なら明日のためにも、しっかり身体を休めるべきだが、自習する。


 なぜって?

 だって魔法だぜ? 使いたいじゃん。

 それに、通訳のせいで、あまり練習できなかったしな。


 魔法は以下の手順で発動する。


 ①使いたい魔法をイメージしながら、杖の先に魔力を集める。

 ②魔法に必要な情報(対象、速度、方向など)を定義する。

 ③発動命令


 1番難しいのは②の情報定義で、クラスメイトの大体の失敗例がこれだった。


 例えば、対象の定義し忘れで魔法が発動しなかったり、定義していても曖昧だったりである。

 厄介なところが、何の定義不足で失敗したか、傍目からはわからないこと。


 失敗したら、ただただ発動しないだけなのだ。

 運が良ければ、魔法がその場に漂ったりして、「あ、これは対象忘れですね。」などと分かるのだが、そんなことは滅多にない。


 そんなこんなでみんな苦戦していた。


 ◇ ◇ ◇


 おれは借りてきた杖を構え、魔法をイメージする。

 そして発動…しない。


「あれ?」


 杖に残った魔力量を見たところ、かなり少ない。


 ……確か徳永が似たような失敗をしていたはず。

 魔力不足だったか。確かこの事例はその可能性が高いと、先生が言っていたはずだ。


 杖に込めた魔力は自然と蒸散、つまり抜けていく。だから、素早く定義をしなくてはならないのだが、なかなか難しい。


 遅ければこうなる。


 そのため、今度は魔力を多めに込めながら発動した。

 ──発動成功。

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