クラス召喚? 〜言葉分かるのおれだけ⁉︎ 通訳で大変です〜

日山 夕也

第1話 え? 言葉分かるのおれだけなの?

 ある日、授業をうけていたら、教室の床が光り出し、気づくと別の場所にいた。

 座っていた体勢のまま、宙に放り出され、尻餅をついた。


「おお。やった。成功だ!」


「やっと終われる……」 


「すぐに報告だ」


 まさかこれは……


「よくぞいらっしゃった。異世界の方。急に召喚して、本当に申し訳ない」

 偉そうな服を着た人が頭を下げる。


「よければ事情を説明させてもらってもいいだろうか?」


「……」 

 誰も返事をしない。


 誰か返事しろよ、と思い、辺りを見渡すと、右にいた高田さんと目が合った。照れたようにニコリと笑い、彼女が言った。


「何言ってんのか、分かんないね」

 辛辣。


 勝手な言い分すぎて、意味わかんないってことか?

 高田さん、そんな皮肉も言うんだな。


「…あー、確かに勝手な言い分だよね」


「え?」


「え??」


 ◇ ◇ ◇


 話していく内に、どうやら高田さんが、あの偉い人の言葉が分かっていないことがわかった。


 よかった。

 別にさっきのは、勝手な言い分で意味わかんない、的な皮肉じゃなく、文字通り言葉の意味が分からないということなのだ。


 と、そこでコソコソと話していたおれ達に目をつけたのか、先程からひとりで、おれ達を召喚した事情について話していた偉い人が、こちらに話しかけてきた。


「どうだろう? 協力してくれるだろうか?」


 これは無視しずらい。

 とりあえずこう口を開いた。


「協力するかどうかは置いておいて、とりあえず状況を理解する時間をもらってもいいでしょうか?」


「…うむ。それはもっともだ。気が利かなくてすまない。話し合ってくれ」


 偉い人に時間をもらったので振り返ると、皆が困惑の目でおれを見ていた。


「北村。お前、分かるのか?」


「何が?」

 薄々気づきつつも、とぼけてみた。


「言葉」


「ああ。分かる」


「どうして?」


「わからない。ここは異世界らしいから、そういうスキルとかなのかもしれない」


「それで聞きたいんだが、他に言葉が分かるやつ、いるか?」

 誰も手をあげない。

 そして、誰も何も発さずおれを見ている。


 なるほど……

 まあ、ここはおれが話を進めるのが自然か?


「えっと、じゃあ、さっきあの人が言ってたことを伝えたいと思うんだけど、それでいい?」


「ああ。頼んだ」


「じゃあ、まず初めから」


「まずこの世界は異世界で、おれ達はそこに勇者として召喚されたらしい」

 それは皆薄々勘付いていたのか、反応は薄い。


「それで、向こうのお願いとしては、街を守ってほしいらしい」


「街を?」

 みんな驚く。そうだよな。おれも驚いた。普通は魔王を倒すと思う。


「そう。街を。魔王を倒すのとかは、こっちの人がやるから、おれ達にはその間手薄になる街を守ってほしいんだとか。もちろん希望すれば魔王討伐にも参加できるらしいんだけど…」


「まあ、基本は専守防衛」


「それで、5年経てば、向こうに帰してくれるらしい」


「5年……」


「それは信用できるのか?」


「分からない。ただ、話しぶりは中々信用できそうだとは思った」

 とにかく良い人そうだったのだ。


「…えっと、とりあえず向こうの話は以上で、何か質問ある?」


「……」

 うちのクラスって、こういうとき、質問する奴いないんだよな。講演会とかのとき、いつも困ってた。誰も言わないと、名指しで当てられたりするから。


「オッケー。じゃあ、とりあえず皆でどう対応するか、話したい」


「まず、向こうのお願いを受けるかどうか。どうする?」


「まずさ、受けなかったらどうなる?」

 渡辺が言った。


「確かに。……聞いてこようか?」


「いや、迂闊に聞くのは危険だろう。最悪処分されるかも」

 徳永が言った。


「でも聞いてみないと始まらないじゃん?」

 これはおれ。


「とりあえず、北村君しか言葉が分からないことを言った方がいいんじゃないかな」

 高田さんが言った。


「確かに」


「…オッケー。じゃあ、言ってくる。ついでに、受けなかったらどうなるか、聞いてくるわ」


 おれはひとり、偉い人の方へ歩こうと思ったが、近くに護衛らしき騎士がいて、難しそうだ。


 なので、近くの壁際にいた、優しそうな魔法使いっぽい杖を持った人に話しかけた。


「すみません。ひとつ報告したいことがあるんですが……」


 ◇ ◇ ◇


 魔法使いの人から、偉い人へ。偉い人からさらに偉い人へ話が伝わり、本当に言葉が通じないか確認を受けた後、おれ達は質問に対する回答について、話し合っていた。


「つまり、5年で元の世界に帰してもらう代わりに、街を全力で守るという契約書を交わすと」


「そういうことになる」


「それは信用できるのか? 向こうが破棄したらそれまでだろ?」


「魔法の契約書だから、大丈夫らしい」


「ふーん…」

 まあ、それに関しては試してみないことには分からない。徳永もそれを分かっているのだろう。話題は別のことに移った。


「それで、協力を断った場合は、何らかの仕事を与えられ、街に住むことになるんだったか?」


「ああ」


「つまり、結局は街を守ることになる訳だ」


「どういうこと?」

 荒井さんが尋ねた。


「街に住んでたら、その街が攻められた時、必然的に戦うことになるだろ?」


「まあ、でも、逃げるという選択肢は取れる」


「どうかな…」

 どうも徳永は王国に対して、懐疑的らしい。


 その時、ちょいギャルの小山さんが言った。


「そもそもさ、今の段階でどうするかなんて決められなくない?」


「だって、これから訓練を受けるわけでしょ? それで戦えそうならお願いを受ける。そうじゃなかったら受けない。そういうのってできないのかな?」


 それについて、向こうから話はなかった。あくまで協力するか決めてくれと言われただけだ。


 徳永が言った。

「どうだろう? 向こうとしては、訓練を行なうのもタダじゃないわけだし、その間のおれ達の食事や、部屋なんかも用意しなくちゃならない。それなら、将来協力するか分からないけど、訓練だけ受けさせて下さいってのは通らないんじゃないか?」


「確かに……」

 小山さんは納得したように引き下がった。


 確かに、徳永の言う通りだとは思う。

 これだけの人数。食事を用意するだけでも大変だ。


 ただ、向こうとしてはこちらの戦力が欲しいのも事実。こちらから言えば、断ることはしないんじゃないか……?


 向こうが言っていたのは、4つ。


 ①5年街を守ってくれたら元の世界に帰す。

 ②その保証は契約書で。

 ③協力してくれる場合は訓練をし、強くなってから街に住んでもらう。

 ④協力しない場合は何らかの仕事を見繕い、恐らく、街に住んでもらう。


 それだけ。


 協力しない場合にどうとは言っていないが、おれ達に期待をしているなら、全員の強さなりなんなりを見てから、決めたいはず……


 さらに言うと、戦力にならない者に街を守ってもらいたいとは向こうも思わないはずだ。


 ただ、徳永の言った通り、訓練を受けてから決めますと言うのも、向こうの心証が悪くなる。


 とりあえずおれはこう切り出した。


「まあ、向こうも戦えない人間を無理に戦わせたりはしないと思う。だったらとりあえず訓練を受ける方がいいんじゃないか?」


 とりあえずここは向こうのお願いに頷いておいて、無理そうなら向こうの良心に期待しよう。

 そういう話である。


「まあ、そうね…」


「おれは協力する。皆も各々どうするか決めてくれ」


 おれはそう言って、集団から少し離れた。


 ◇ ◇ ◇


 偉い人side


「まさか言葉が分からないとは」

 外交参謀のバイスが言った。彼は北村達に話しかけていた、割と偉い人である。


「これまでの勇者召喚でそのようなことはあったかな」

 

「そういった記録は残っていないが…」


「もしや、召喚魔法に何か不備があったのでは?」


「今それを調べてさせていますが、恐らく分からないでしょう。そもそも手探りの魔法でしたし、仕方のないことではないかと思います」

 魔法学会のNo.2であるエレーナが言った。彼女は今回の召喚魔法を主導した人物である。


 そのとき、髭の生やした貴族が言った。

「異世界人が口裏を合わせているということはないですかな?」

 彼は異世界人をよく思っていないらしい。


 それに同じく貴族のアリタナが同調する。

「なるほど。それは確かにあり得る」


「しかしそんなことをして何のメリットが…」

 バイスは反論し、


「まあ、向こうとしてはこちらを警戒して当然。であれば、まずは信頼してもらうことからですかね……」

 それをエレーナが取りなした。


「しかし、その点で言えば、言葉が分かるものが1人いたのは幸いでしたな。北村と言いましたか」

 バイス派の貴族が言う。


 バイスもその可能性は低いと思うが、例え彼らが口裏を合わせているのだとしても、言葉が分かる者を用意した。

 その事実は向こうもこちらとコミュニケーションを取る意思があるということを示している。

 悪くはないことだ。


「ええ。本当によかった」


「彼には頑張ってもらわねばな」


「とりあえず彼には最大限気を使うように」


「了解」


 ◇ ◇ ◇

 北村side


 結局、全員が向こうに協力することになった。

 とりあえずは、だが。


 何人かは周りに合わせた感じがある。


「一応、こちらは全員、街を守るために協力させて頂こうという考えです」

 おれは偉い人にそう報告していた。


「おー! そうか。それは王様も喜ばれるだろう」


「ただ、訓練を受けてみて、明らかに戦闘が向かない者については……」


「分かっている。無理そうならいくらか仕事を斡旋しよう」


「! ありがとうございます!」

 まさかこんな簡単に言うとは思わず、少し驚く。


「はは。だがまあ、そんな心配、必要ないと思うぞ。異世界人は何らかのスキルを持つというのが通説だからな。食いっぱぐれることはないはずだ」


「…つまり、私の言葉が分かるというのも、スキルの可能性があるということでしょうか」


「その可能性が高いと考えている」

 となると、おれは戦闘には向かないかもな…


 ◇ ◇ ◇


 とりあえずは全員協力するということで、それぞれに個室を用意された。


 王城で過ごす間は、そこで暮らすらしい。

 個室なのはこちらを歓迎しているからか、話し合わせないためか……


 まあ、良い部屋だ。

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