第6話
男の子は顔を上げず、ただ首を横に振った。名前を尋ねても答えない。ただ、その小さな手の甲には古いあざがいくつも残っていた。
「お家はどこ? お母さんは?」
菜月の問いに、少年はかすかに「いない」と呟いた。それ以上話す気配はなかったが、彼の表情には絶望が滲んでいた。
菜月はしばらく考えた末、「お腹は空いてない?」と尋ねた。少年は戸惑いながらも小さく頷く。それを見て、菜月は「じゃあ、家に来て少し休んでいく?」と優しく声をかけた。
少年は少しだけためらったが、やがて立ち上がった。
菜月は彼を家に招き入れると、簡単なスープを作りながら、彼に名前を尋ねた。「武彦」と、少年は小さな声で答えた。彼の短い返答からは、普段からほとんど話す機会がないことが伺えた。
スープを一口飲むたびに、武彦の頬が少しずつ紅潮していく。それを見た菜月は、「この子は何があったんだろう」と胸が痛むのを感じた。
こうして、リウマチ性関節炎を抱えながら生活保護を受ける菜月と、ネグレクトに苦しむ少年・武彦の奇妙な生活が幕を開けた。
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