第5話「それでは、日曜日の話をしよう」

お題:【プロローグ】


【前回までのあらすじ】

 根源坂開登こんげんざかカイト(17歳)は今週月曜日の記憶がすっぽり抜け落ちた男子である。

 欠落した月曜日に彼は、後輩の黒紫あげは(16歳)にベロチューをしてしまったらしい。

 不確定ながらもどうにかなんらかの責任を取ろうとする彼だったが、なぜか黒紫の方はわりとノリノリで、彼は次第に少しばかりの不可解さを抱き始めるのであった。


 ◇


 喫茶『サファンシー』

 芸都げいと郊外・戯画町PM6:30


 ——などと、仮面ライダークウガみたいなモノローグを以て今いる場所を再確認したのだが、まあ何というか、全体的にクラシカルな喫茶店であると俺は思う。どことなく異国情緒にも溢れておりすごく良いと思うのだが、おそらく俺一人では来ることなど一度たりともなかったであろうことだけは確かである。俺はこういうおしゃれなアンティーク・喫茶店を目撃した場合、


「へぇ、良いサ店じゃんよ……」


 などとほざくだけほざいてそのままビビってどっかに行ってしまうからである。

 最近まで有名チェーン喫茶店『スタダ』にも同じリアクションをとって入れずにいた。


 ではなぜ今俺がサファンシーに入れているかといえばそれは目の前に座っている銀髪ツーサイドアップ・真紅眼の生徒会長レッドアイズ・シロサキ・ヒガン——、もとい、幼馴染の白咲彼岸しろさきヒガンに連れてこられたからである。


「——根源坂くん。その借りてきた小童みたいな仕草から察するに、『俺は今この目の前で圧倒的な存在感を放つ美少女幼馴染によって超絶オシャレな喫茶店に連れてこられている。うおおなんでこんな目に遭っているんだァ』とか思っているんでしょう?」


「驚くべきことにほぼほぼ大正解だが小童じゃなくて猫な。借りてきた猫だからな?」


「そんなことは些事よ。それよりそこの匙をとってよ根源坂くん。頼んだパフェが食べられないわ」


 スプーンを匙って呼ぶ人初めて見た。いや呼ぶんだけど実際に見たのは初めてだったので驚いた。


「ていうか白咲お前な。また晩ごはん前にそんな量のデザート食べちゃって。ちゃんと残さず食べてんのか?」


 そう言うと白咲は少しだけムッとした表情を浮かべながら


「ちゃんと食べてますぅ。その後ウォーキングもしてますぅ」


「偉いなオイ」


 思っていたよりしっかりしてるぞ白咲!


「そもそもね根源坂くん。貴方はいつもそう。ああ言えばこう言う。私は今日ね、これでもfor youって感じで貴方をここに誘ったのよ?」


 チョコレートパフェを食べながら彼女はそう言った。


「え、俺のために? 一体何を——」


「何をじゃないわよ。黒紫あげはさんだっけ? 貴方がここ数日巻き込まれている件について、ちょっとは助け舟を出そうかなって、そう思ったのよ」


「助け舟、それは渡りに船だけど、もしかして俺が月曜に何やってたのか思い出したとか?」


 彼女は首を横に振った。否定である。


「そこなんだけどね。貴方、月曜日が何の日か覚えてないのねやっぱり」


「なんだっけ」


 はぁーーーーーーーーーー、などとやたら長いため息をつく白咲。ものすっごい落胆って感じだった。


「文化祭、の振替休日よ。うちは金・土でやるでしょ? だから土曜日分の振替で月曜日が休みになっていたというわけ。

 貴方まさか文化祭の事まで忘れたわけじゃないでしょうね?」


「覚えてるよ。一日目はステージ借りて色々演劇とかゲスト呼んだトークショーとかあったよな。で、ほら、二日目は、部活やクラスの出し物だろ? 俺はそれでクラスのラーメン模擬店の手伝いしてたわけじゃん。お前は生徒会側で色々やってたわけだけど」


「で。貴方確かその日に? 黒紫あげはに」


「——ああ、そうだな。それは間違いない。模擬店の休憩がてら隣の空き教室に入ったらいたんだよ。そこでちょっと話してな。多少オカルト方面で話も弾んだわけだが、まあそれぐらいのもんだよな。

 で、確か俺の趣味の話が深掘られていって、で、なんだっけな、一緒にフィールドワークする流れになったんだっけな」


 ——そう、その日は。


「そうね。確かに貴方そう言っていたわ。貴方帰宅部と言っても、実際は夏休みまでに部員が集まらなかったことで部活動認定から外れた『新聞部』のメンバーだものね。

 うちは厳しいから五人はいないと部として存続できないものね。よその学校は今二人でもOKな流れになりつつあるところもあるらしいけれど、よそはよそ、うちはうちだものね。

 で、その新聞部の活動を、部活じゃなくなった今も貴方は趣味で続けていて、で、私は特に誘わず黒紫さんと一緒に出かけると、の朝に家の前でバッタリ会った私に言ったのよね」


 モノスゲー長々と捲し立てられた。

 確かに黒紫ちゃんと意気投合するのは早かった。オカルトな話から入っていって、俺がに町の噂話でも調査しようかなどとそこで提案したのだった。

 黒紫ちゃんも結構ノリノリで、ああこれは結構楽しいフィールドワークになるぞ。などと俺はモノローグしたように記憶している。

 しているのだが、今なんかおかしな食い違いがあったように思う。


「……あれ? 白咲。俺がお前と会ったのって日曜じゃなかったっけ?」


「いいえ。私が貴方と会ったのは月曜よ。振替休日であるところの、月曜日よ」


「………………」


 ——俺はひょっとしてとんでもない勘違いをしていたのではないだろうか。


 俺から抜け落ちた記憶。それはおそらく——


「……俺、もしかしてさ。月曜じゃなくて日曜の記憶が抜け落ちてて、

 その上で月曜が休みだったから、振替休日のことをすっかり素で忘れていた俺は何も違和感を持たずにフィールドワークに出かけて行った——そういうことか?」


 なぜそう思ったのか。簡単だ。

 


 俺は確かに彼女と出かけた。あいにくの雨模様だったが、彼女はそれすら織り込み済みだったのか、ややテンション高めに街を歩いていた。


 学校の怪談やら、街の七不思議の内、俺が知っている一つと彼女の知っている一つを調べてみた。

 彼女はそういうのに慣れているのか、取材調査を進めていった。


 俺はそれを日曜日の出来事であると誤認していたのだ。

 普段からそんなにテレビも見ないので、番組から曜日を察することすらなかった。


 それで翌日目覚めて学校に行ったら火曜日で、俺はひどく混乱したのであった。


「気づいたようね。

 私もあの後ちょっと友達とかに聞いてみたけど、貴方どうも日月と、街であの子と歩いていたのを目撃されているのよ。

 あの子、それはそれとして一日目の体で貴方と接していたんじゃない?」


 そうだった。その通りだった。

 だから不思議でならない。不可解でならない。

 彼女がどうしてそのようなことをしたのか。そしてそもそもなぜ俺の記憶は1日分飛んでいたのか。俺が日曜日だと誤認していた月曜日、その日のことを今一度思い浮かべて——あるワードに行き着いた。


「——結局調べなかったんだけどさ。

 、戯画町にいるらしいんだよな」


 そんな噂を、黒紫あげはが言っていた。


第5話、了。第6話に続く。

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