第3話「invitation……」
お題:【ローグライク】
【前回までのあらすじ】
前日の記憶がすっぽり抜け落ちたらしい主人公・
悩みに悩んだ末、幼馴染の白咲彼岸ちゃんにそのことを相談したところ、普通に言い方がド直球過ぎたためファミレスで水をかけられたのだった。
◇
——とはいえ、とはいえである。
俺がそこまで積極的にやることやるやつではないと白咲もわかっていたようで、一応は機嫌を直してくれた。ムスッとはしているものの、もう苦言を呈することもなかった。
そんなわけで、当面の問題は解決したのだった。なぜ当面かと言えばそれは俺と彼女の家は隣なので帰り道が同じだったからだ。
だからそこは一安心だったのだが、なんやかんやちょっと恥ずかしく気まずい話題でもあったためかお互い若干目を合わせづらい感じで歩いて駅まで行き、何度も曲がるところを間違え、そしてエレベーターのボタンを押し間違え、エレベーターに入ってきた人に痴話喧嘩(?)を聞かれかけ、などなど色々あったがとにかく俺たちは電車に乗ることができた。
そのあたりで異常に気づいた。
「いや最寄駅にエレベーターとかあったっけ?」
気づいた時にはもう遅く、電車はすでに走り出していた。乗客は俺と白咲だけ。普段ならそんなわけないのだった。だって言っちゃなんだが結構都会の駅なのだ。ここまでがらんどうなことはまずないのだ。
「なあ白咲。俺ら根本的に駅間違えたんじゃねーかな」
と言いながら白咲の方を見ると、白咲は顔面蒼白になっていた。
「白咲?」
「……七不思議」
「え?」
「
何よ根源坂くん。もしかして貴方、地元の七不思議知らないの? 遅れてるというか生き遅れてないかしらそれ。ちゃんと息してる? 息遅れてない?」
顔面蒼白に見えたがそれは照明のせいだった。白咲は絶好調だった。
「不吉なこと言うなよ。……そういや小学生の頃そんなの流行ってたな。あれだろ? 七不思議を全て知ると異界の扉が開くっていう、そういうやつ。俺はせいぜい2つぐらいしか知らなかったな」
「ええ、そうね。それよ。
1、学校の螺旋階段
2、深夜の校庭を疾走する全裸の女
3、早朝の自転車置き場を疾走する全裸の男
4、電線の上にぶら下がる湯葉みたいな布
5、逆さまの彼岸花
6と7、知らない——とまあ、こんな感じよ」
「結構知ってんな!? ていうか一部なんか普通に変質者混ざってねーか!??」
俺のツッコミに白咲はフフンと得意げになりながらこう続けた。
「いい、根源坂くん? こういう怪異譚っていうのは時に教訓じみたものが混ざっているものなの。つまりはね、『普通に不審者とか超危ないから気をつけなさい』——なんていうエピソードも混ざっているということなのよ」
「だとしてもまんま不審者そのものが怪異譚になってるのはなんなんだよ」
とかなんとか俺は新たなツッコミをぶつけたわけだが、当然その中には今の異常現象はなかった。ていうか俺の知っている怪異譚が今のラインナップに含まれていないことに気づいた。
「……なあ白咲。俺の知ってる七不思議にさ、こういうのがあってさ」
などと言い始めたあたりでノイズだらけで全然全くこれっぽっちも聞き取れないアナウンスが鳴り響き、電車が駅に止まった。
「……根源坂くん。その七不思議って、ああいうやつ?」
駅の看板には『現代dungeon』と赤字で書かれていた。
「——あー、うん。そうなんだけどもっとおどろおどろしいイメージだったかな俺は」
——横転しかけたが、俺の知っている七不思議、『異界とつながる電車』というエピソードとは、まあほぼほぼ完全一致していたのだった。
◇
「で。帰るには駅から降りて人里に行くしかない。そういうことなのね」
「ああ、まあそうなるな。人里に降りると今までのが嘘だったみたいに地元に帰れるらしい」
「で。その人里に降りる手段ってこれなの?」
俺たちが降りた駅、『現代dungeon駅』。そこは、ホームの出口がそのまま洞窟に直行しているというファンタジーな仕様だった。いや案外どこかには本当にそういう駅もあるかもしれないが、とにかく俺はご存知なかった。
で、仕方がないのでdungeonに入った俺たちだったのだが、入る寸前に、立て札がありこう書かれていた。
『途中までの道を覚えて一旦引き換えしても無駄です。ここは入るたびに地形が読み込まれるタイプのdungeonです。ざまーみろ。覚えゲーなんてさせるかよギャハハ』
ローグライクだった。ローグライクタイプの現代dungeonだった。
つーかこの看板書いたやつなんなんだよ。ローグライクはなんかそういう意地悪なノリではないだろ。ざまーみろじゃないんだよ。ギャハハじゃないんだよ。クソッ、なんか知らねーがムカついてきたぜ……!
「行くぞ白咲。この看板書いたやつに見せてやろうぜ。ローグライクは人を傷つけるためのものじゃないってことをよ……!」
「根源坂くん。貴方がローグライクの何を知っているのかは分からないけど、現実世界に存在するローグライクなダンジョンは普通に誰かを傷つけかねないと思うわよ」
正論だった。俺は冷静になってdungeon突破を目指すことにした。
◇
カツン、カツン、などと反響する足音。
俺と白咲はたまに現れる羽虫を払いながら、とりあえずスマホのライトでdungeon内部を照らしながら進んでいた。
なんか思ったより危なくないので、白咲に至ってはノリノリになってなんか歌い出した。
「invitation……現代dungeon……」
「ぜってーうろ覚えだろそれ」
「黙れ」
荘厳な静寂が辺りを包む。たぶんだが、俺がもっと白咲のこと大事にすれば良いんだろうな。そう思った。
——それにしても。dungeonという割には——いやまあ別に普通にちょっとした冒険要素ぐらいの意味合いの洞窟なのかもしれないが——全くと言っていいほど、いわゆるモンスター的なやつが出てこない。それはそれで逆に薄気味悪い。
ローグライクといえば、なんかモンスターと戦いながらdungeonを攻略していき、なんか良い感じのお宝とかを手に入れる感じのイメージがある。あるのでなんかこう、ここまでモンスターの類がいないままだと、本当にただ洞窟を通って人里に降りるだけなんじゃね——みたいな気持ちがしないでもなかった。
「あ、根源坂くん。出口よ。思ったより早かったわね」
「ありゃ、ほんとだな。えー、何事もなくて良かったけどなんか若干肩透かしだな」
「ええ、本当にね。多少のスプラッタ展開ぐらいなら根源坂くんがどうにかしてくれるって思ってたから、本当に肩透かしって感じだわ」
「お前本当に俺のことなんだと思ってんの?」
「何って——」
水をかけられて以来、ようやく白咲と目が合う。白咲はそのまま微笑を浮かべて、
「——こんなこと言っても怒らない人、でしょ」
たぶんモンスターよりすごい一撃を与えてきた。
うーん、なんかモヤモヤする。俺もなんか気の利いた返答をしたかったのだが、残念ながら俺は今まあまあテンパっていたためそれどころではなかった。
「……ま、まあとにかく出口見つかって良かったぜ。お宝とかなかったけどいいだろ! 安全第一!」
とまあ気が動転してナンジャラホイなことを言う俺だったが、ここで視線の先に見覚えのある人影を発見した。
「——え、先輩……と会長。なぜここに?」
それはやや外ハネのショートヘアが可愛らしい後輩、黒紫あげはだった。何を隠そう、(マジで記憶にないが)俺が昨日ベロチューしたらしい相手だった。
白咲がすでにだいぶ尖ったナイフみてぇなソリッドさとなった目つきで俺を睨んでいるのは重々承知なのだが、それでも俺はメチャメチャ冷静に黒紫ちゃんへ問いを投げた。目の前のことから逃げてはいけないからだ。白咲の視線からはバリバリ逃げているが気にしてはいけないのだ。
「……それを言ったら黒紫ちゃんこそなんでこんなとこにいるんだ? ここ、戯画町じゃないかもだぜ?」
我ながら何言ってんだって感じだったが、『現代dungeon』と赤字で書かれた駅が地元駅であってたまるかって感じだったので、もうそういう異界の体で言ったのだが、
「いえ、戯画町ですよここ。嫌ですね根源坂先輩。紛れもなくそのdungeonは戯画町の内ですよ。ですからそこはお気になさらず。
でもお二人とも早く人里に戻られた方が良いですよ。流石に幼馴染とは言えdungeonで二人で野宿というわけにはいかないでしょうから」
野宿て。
白咲の顔が若干赤い気もしたが、俺の顔もたぶん赤いので気づいていないふりをして俺たちはdungeonから出た。
なんか本当に肩透かしって感じであったが、出口付近で白咲の可愛いところをチョイチョイ見れたのでそれで良しとしよう。俺はそう思った。
「黒紫ちゃんも早く帰ろよ。ていうかここまで来たら一緒に町まで戻ろうぜ」
若干白咲がムスッとしていたが、まあ流石にここに後輩置いていくのはね? という感じなのだった。
◇
——根源坂少年と白咲彼岸は気づいていなかったが、dungeonが暗いだけで、壁には大量の肉片が付着していたという。
第3話、了。
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