第7話

 ダズからアドバイスを貰った次の日、アシュランはビギナ村の東にある静寂の森へ訪れていた。目的は先日のダズのアドバイスを意識しながら鍛練するためである。


「よ~し!そんじゃやるか~。あ、でもあれだな、早く色々試したかったからカイルたちと森で虫探しすんの断ったんだよな~。こんな浅い所じゃ不味いか?」そしてアシュランは森へ行く前にカイルと交わした会話を思い出す。




 ・・・


『ねえアシュラン、タツカが森でメタリックドラゴカナブンを見た人がいるって聞いたらしくて、良ければ一緒に探しに行かないかってさ。今日は道場も休みだし、僕は行こうかな~。君はどうする?』


『う~ん、全然虫興味ねえからな~止めとくかな~?』『ふ~ん、そっか。あ、そう言えばライノスも来るってさ』


『その後出し情報要らねえ~!何でそれで食いつくと思ったんだよ!?ますます行く気無くなったわ!ってか絶対行かねえ!』


『あれ?二人は目が合えばとにかく話さずには居られないって感じだからてっきり仲が良いのかと』


『それはとにかく相手が気に入らねえからお互いに文句言いたいだけだ!アイツとお友達とか島亀がひっくり返るぐらいあり得ねえから!』『え~、何それ・・・』




 ・・・


「断っといて森で鉢合わせたら気まずいよな~。今回はもう少し奥行ってみるか。あ、せっかくだし祠がある所にするか?あそこに用があるヤツなんて誰も居ないし、一人で集中するには持ってこいだよな」


 カイルたちの誘いを断った手前、森でカイルたちと出会う訳には行かないアシュランは、滅多に人が立ち入らない祠がある場所へと進んで行く。


 そもそも、わざわざ森まで来て鍛練をするのは、単純にアシュランが必死に努力する姿を他人に見せるのはダサいと思っているからである。彼は思春期真っ只中なのだ。




 ━━━━━


 祠の前までたどり着いたアシュランだが、ふと違和感を感じる。「あれ、あの祠って剥き出しだったっけか?何かボロい建物があって、そん中に祠があったはずなんだけどな~」そう何度も来る場所でも無かったのでアシュランは覚えていなかったが、彼が以前訪れた際には、祠は建物の中にあった。現在祠を囲っていた建物は、まるで強い力で吹き飛ばされたように辺りに散らばっている。


「そういやこの前天気が荒れてたから風にでも飛ばされたか?」アシュランは以前の嵐の際に、強力な風によって建物が崩れてしまったのだろうと自分を納得させ、鍛練を始めた。祠周辺は相変わらず、不気味な程生物の気配が無く、静寂に包まれていた。


「それにしても何もねえなあここ。祠だけになってもっと寂しくなったし。まあそんなことより、鍛練始めるか!確か先生に言われたのは・・・」アシュランは先日のダズのアドバイスを元に鍛練を重ねていく。特に、剣の練習にばかりで筋肉が疎かになっていると言われたので、筋トレを重点的にしていく。


「はあ、はあ、そう言えば筋トレとかあんまりしたこと無かったな。カイルみたいに剣が上手くなれば何とかなると思ってたからな」筋肉バカのライノスにはいつも力でゴリ押されて負けてしまうのだが、そんなライノスにも、カイルは剣の技量で圧倒していたため、アシュランは剣の上手さが強さであるという考えに囚われていた。


(そうだよな、俺はカイルじゃない。アイツを真似てばかりじゃいつまでも追い付けない!)


 今までカイルの背中を追い続けていたアシュランだが、結局カイルと自分は別の人間で、カイルにはカイルの、自分には自分のやり方があるという事を理解する。


「ふ~、一旦休憩するか」それから鍛練を続けていたアシュランは、休憩をするため荷物置き場にしていた祠の前に寝転んだ。


「あ~、疲れた~。それにしてもこれって一体何なんだろうな?」ふと気になったアシュランは起き上がって祠の観察を始めた。見た目はやはり何かを祀っていた物のようだが、如何せん状態が悪く、見ただけで読み取れる情報は少ない。それから祠の周りをぐるりと回って確認したが、唯の村人でしかない少年にはこれがどういうものなのか予想もできない。


「ホントにこの中に何かいたのか?でもまあこんなボロいと、中のヤツとか居心地悪くて出て行ったんじゃねえの?それかワンチャン何かの力とかゲットしたり?」


 この世界にも、神や天使等の超常的存在を祀るための建物が存在する。だが、この祠のような状態では、もう何の力も残っていないだろうと考えたアシュランは、恐怖よりも興味が勝り、見るだけでは収まらず、直接触って確認しようとした。


 普段なら少し祠を確認をしただけで何も分かるはずもなく、その時点で興味を無くして鍛練に戻っただろう。しかし、生来の後先考えずに行動する性格に加え、ダズのアドバイスにより、カイルに追い付くという道に光が見え、カイルに対する対抗心がより強くなっていたアシュランは、自制心が緩くなり、祠に触れるという選択をしてしまった。それにより、彼の人生の歯車が狂い出すとも知らずに。


『う~ん、ボクの周りでうるさくするのは誰だい?せっかく人が気持ちよく寝てたってのにさぁ。ま、この前のヤツよりマシだけどね。あ、聞いて聞いて?あの時はホントにうるさかったんだよ~、ボクの家吹き飛ばされたし。あ~思い出したら腹立ってきた!ね、君もそう思うでしょ?』「!?」


 突然何処からか聞こえて来た声にアシュランは驚く。「な、なんだ!?」『あれ?もしかして分かってない感じ?お~い!ここだよ、ここ!』


 声が聞こえて来た方向には祠しかないため、アシュランは更に驚く。「ま、マジで何か居たのかよ・・・」『あ、気付いた?この前は何か面倒くさそうなヤツらだったから無視したけど、目の前にはアホ面かました少年一人だけだし、声だけじゃなくて~、とりゃ!』「どわぁ!?」


 今度は突然祠から少女が飛び出し、アシュランは驚きのあまり尻もちを着いてしまった。「お、女?」


 現れたのは一人の少女。透き通るような白い髪に血の様な真っ赤な瞳、顔立ちは非常に端正で、まるで精巧な人形のようである。


 少女は地面に降り立ち話す。「先ずは自己紹介から。初めまして!ボクの名前はダフニ。少年、君の名前は何と言うのかな?」「お、俺はアシュランだ・・・」自己紹介を交わした後、謎の少女ダフニはアシュランへ問い掛ける。


「じゃあアシュラン。早速だけどボクと契約しない?」「は?」


 唐突に切り出した彼女の目は爛々と輝いていた。

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捧グ者~平凡な少年は邪神と契約し、身体、精神あらゆるものを削り、苦難を乗り越える~~ アルパカすめし @arupakasumesi

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